「常に変わっていく店でありたいし、止まらないように意識しています」と中島さんは言う。〈POST〉の前身である古書店〈limArt〉を、新宿区の早稲田で始めたのは約20年前。以来、一貫してアートブックショップを営んでいる。文字も視覚的な表現として捉えることができるという理由から、扱うのは洋書だけ。
2019年には銀座の〈BIBLIOTHECA〉、22年には青山の〈新建築書店〉と初台の〈Gallery5〉をオープン。現在の実店舗は4カ所だ。
10代の頃から店を開くと決めていたが、「いわゆる本好きの人とは違う視点で本を見ていたと思います」と中島さん。早稲田の〈limArt〉は、インテリアデザイナーの澄敬一(すみ・けいいち)が手がけた空間に、古家具を置き古書を並べ、読書をする環境も含めて体感できる店舗だった。
06年に恵比寿へ移転した後は、国も年代も問わず印刷物として面白いものを海外で買い付けた。どちらも時代を先取りするショップスタイルで、当時から古道具店の店主や目利きデザイナーに注目されていたのもうなずける。
アートブックに触れる契機になる場を増やしたい
「個人の趣味嗜好よりも少し開かれた価値観で本を選べる場を作りたくなり、出版社単位で本を紹介する〈POST〉を始めたのが11年。2年間だけ代々木で実験的に店を開いた後、13年には恵比寿の店も〈POST〉としてリニューアルしたんです」
店は恵比寿だけで十分だと思っていた。接客が好きで、普通の本屋とは違うコミュニケーションが生まれ得ることが店の魅力にもなっていたから、そこを人に任せてまで増やさなくてもいいと考えていたのだ。それがこの数年で一気に拡張した。
「自分の手を離れた形でも店を持って、それらの総体として世界観を作るのもいいかな、と思えたんです」
拠点となる〈POST〉は、さまざまな興味を持つ人が訪れ、その興味を広げていく書店。ファッション好きが訪れる〈BIBLIOTHECA〉は、常に新しいアートブックと出会える場所。〈新建築書店〉はアートと建築をまたぐ領域の週末書店で、東京オペラシティ内の〈Gallery5〉は、美術館の展示に合わせて内容が替わるミュージアムショップだ。
それぞれに特徴はあるが、どの店も「常に変わること」を意識し、可変性のある什器(じゅうき)や展示方法を採用した。さらに中島さんは、実店舗以外の場所で期間限定のポップアップストアを開くことにも意欲的だ。
「その店でしか扱っていないもの、その店に足を運ばないとできない体験。そういう価値が必要だと思い続けてきました。ですが、空間や提案の仕方が変われば、同じ本でも伝わり方が変わると気づいたんです。ピカソの作品集も、画集として〈POST〉に並ぶのと、“フォルムをテーマとした広義の建築本”として〈新建築書店〉に並ぶのとでは、見え方が変わる。本を介して新しい価値観と出会う場所を作るという軸は変わらないけれど、“場”を拡張することで、アートブックに触れるきっかけが増えたら、と思っています」
BIBLIOTHECA(東京都・銀座)
ファッション好きも満足。新しい本や話題作がいち早く
「話題の作家の作品集など、4店舗の中でも優先的に新しいものを置いています」と中島さん。川久保玲がディレクションする〈ドーバー ストリート マーケット ギンザ〉7階に2019年オープン。
新建築書店 | POST Architecture Books(東京都・青山)
建築と親和性のあるアート本をユニークな分類で紹介
オープンは2022年。建築専門メディアである〈新建築社〉と共同で設立した専門書店だ。
サインは亀倉雄策による『新建築』のロゴから取った「新」と、田中義久がデザインした「POST」を合わせたもの。
Gallery 5(東京都・初台)
美術展と連動したディスプレイ。作家と協業した限定作品も
「美術館で展示を行っている作家への理解を深め、アートにまつわる知識欲を満たす場所」と中島さん。
2022年よりリニューアルして〈POST〉が運営を手がけている。空間設計は〈スキーマ建築計画〉の長坂常。棚は可動式で、展示に合わせてゾーニングを変えられる。