対立は今後も続くのか?「ストリーミング vs 映画館」の構図に隠された、アート系映画のこれから:映画選びの教科書 2026年版 Vol.02

アルゴリズムやレビューサイトのスコアにとらわれず、本当に観たい映画と出会うためのさまざまな価値基準を探る連載「映画選びの教科書 2026年版」。第2回は、ワーナー買収騒動をめぐって浮かび上がった、「ストリーミング」作品の存在意義について。

text: Yusuke Monma

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ストリーミングをめぐる報道と、第98回アカデミー賞

ストリーミング vs 映画館。

この対立構造があらためて浮き彫りになったのは、昨年の終わりに報道されたあるニュースがきっかけだった。

「ネットフリックス 米ワーナーの事業11兆円余で買収合意」(NHKニュース)

2025年12月、動画配信サービス大手のNetflixが、ハリウッドメジャーの老舗であるワーナー・ブラザースの手がけるスタジオ部門とストリーミング部門を買収することに合意したと発表したのだ。

すると、瞬く間に巻き起こったのがハリウッドの業界団体による反発だ。例えば『ニューヨーク・タイムズ』は「Everybody in Hollywood Secretly Hates Netflix. So Now What?(ハリウッドのみんなが密かにNetflixを嫌っている。では、これからは?)」という刺激的な見出しで、ストリーミングサービスのさらなる普及拡大が、映画館における唯一無二の劇場体験を終息させてしまうだろうと、ジェームズ・キャメロンらハリウッドの映画人の見解を交えて論評した。

こういった拒絶反応のひとつの根拠になったのは、Netflixの共同CEOテッド・サランドスが映画の劇場公開システムを時代遅れと発言したことにあった。そのためNetflixに対抗して、ハリウッドメジャーの一角をなすパラマウントが新たな買収案を提示すると、業界団体はその動きを支持し、一方でNetflixはワーナー買収後も映画の劇場公開を尊重すると明言せざるをえなかった。

すでに周知のように、結局は2026年2月末にNetflixがワーナー買収から撤退し、パラマウントによる買収合意が発表されたのだが(もちろんトランプ政権に近いパラマウントによる買収の懸念点も、Netflixへの反発と同様か、むしろそれ以上に多く報道されたが)、興味深いのはその直後に行われた第98回アカデミー賞授賞式での結果だ。

Netflix製作の『フランケンシュタイン』が美術賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、衣装デザイン賞の3部門、『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』が長編アニメ賞と歌曲賞の2部門、そして『あなたが帰ってこない部屋』が短編ドキュメンタリー賞を受賞し、Netflix作品に対する一定の評価が示されるかたちとなったのである。

さて、この一連の騒動から見えてくるのは、どんなことだろう?

『フランケンシュタイン』の場面写真
Netflix映画『フランケンシュタイン』独占配信中/ギレルモ・デル・トロ監督作品。ひとりの天才科学者と、その野心が創り出した恐ろしい怪物をめぐるメアリー・シェリーの古典小説を、新たな視点で映像化。

ミドルバジェット作品に見る、“映画をどう作るか”という問題

ともすれば、これらの対立は“ストリーミングか?映画館か?”という視聴環境の違いから語られがちだ。つまり“映画をどうやって観るか”の問題としてだが、同じように目を向けなければならないのは、“映画をどうやって作るか”の観点だろう。

さかのぼること20年近く前、第80回アカデミー賞で作品賞を含む4部門を受賞した『ノーカントリー』は、ミラマックスとパラマウント・ヴァンテージの共同製作作品だった。パラマウント・ヴァンテージとは、1990年代終わりにパラマウント傘下に設立されたアート系の製作部門で、『ヴァージン・スーサイズ』『バベル』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』といった作家性の高い作品を世に出した。主に手がけたのは、ブロックバスターとインディペンデントの間に位置づけられる、ミドルバジェット(中規模製作費)の作品だ。

ところが、作品の質の高さを誇る一方で収益を上げることには苦戦し、パラマウント・ヴァンテージは2014年に閉鎖されてしまう。ミドルバジェット作品がそうして、世界的に苦境に立たされるようになったのは2008年のリーマン・ショック辺りからで、その向かい風は今もなお強い。

それらの良質で、作家性が高く、アート系と呼ばれるようなミドルバジェット作品の製作を、まさしくその時期から担うようになったのが、まずNetflixであり、またその他の動画配信サービス各社だ。

2018年のNetflix作品『ROMA/ローマ』は、監督のアルフォンソ・キュアロンの自伝的な物語で、舞台はメキシコ、言語は主にスペイン語、なおかつモノクロのフィルムで撮影されるという、ハリウッドメジャーの価値観に照らせばきわめて非商業的な作品だった。しかしヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(最高賞)を獲得し、第91回アカデミー賞では作品賞など10部門にノミネートされ、外国語映画賞(現在の国際長編映画賞)、監督賞、撮影賞を受賞した。

『ROMA/ローマ』の場面写真
Netflix映画『ROMA/ローマ』独占配信中/アルフォンソ・キュアロン監督作品。政治的混乱に揺れる1970年代のメキシコを舞台に、ひとりの家政婦と雇い主一家の関係をモノクロ映像で綴る。

高い評価を得たという点では、2019年のNetflix作品『マリッジ・ストーリー』も引けを取らない。ノア・バームバック監督による、互いへの思いやりが完全に失われたわけではない、ある夫婦の苦くやるせない離婚劇は、おそらく10年前ならパラマウント・ヴァンテージやフォックス・サーチライトなどミニメジャースタジオが手がけたはずの優れたアートハウス作品だ。

『マリッジ・ストーリー』の場面写真
Netflix映画『マリッジ・ストーリー』独占配信中/ノア・バームバック監督作品。離婚を決意した一組の夫婦の、別れに至るまでのプロセスを赤裸々かつ丁寧に描き出す。

観る側も無関係ではいられない「これからどうする?」という視点

興行として成立するか、という価値基準で判断したとき、莫大なコストを費やし大規模に公開するブロックバスターでもなければ、低予算で製作してリスクの少ないインディペンデントでもない、ミドルバジェットの作品はもっともリターンが読みづらく、製作のラインナップから切り捨てられやすい。かつては興行収入が十分に上げられなくても、DVDやBlu-rayなどのパッケージ市場で補うことができたが、その仕組みは今ではすっかり崩壊してしまった。

作家主義的な、あるいはまた芸術的、文化的な、良質の素晴らしい中規模作品を製作する場所は、映画館における興行成績を気にする必要のない、ストリーミングのプラットフォームにかなりの程度移行した。もちろん、それらの作品を映画館で観ることの価値が失われたわけではないし、劇場でなければ人生を大きく揺さぶるような鑑賞体験にはなりえないのかもしれない。

So Now What?(では、これからどうする?)

もしかしたら、その次は私たち観る側に委ねられているのかもしれない、もしそのような映画を、今後も映画館で観続けたいのであれば、私たちは現実に抵抗するための劇場鑑賞を行う必要がある。

「ストリーミング」で選ぶ、今観るべき10作品

『13th -憲法修正第13条-』(2016年/エヴァ・デュヴァネイ監督/Netflix)
『イカロス』(2017年/ブライアン・フォーゲル監督/Netflix)
『ROMA/ローマ』(2018年/アルフォンソ・キュアロン監督/Netflix)
『マリッジ・ストーリー』(2019年/ノア・バームバック監督/Netflix)
『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』(2019年/ダリウス・マーダー監督/Amazon)
『ドント・ルック・アップ』(2021年/アダム・マッケイ監督/Netflix)
『西部戦線異状なし』(2022年/エドワード・ベルガー監督/Netflix)
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021年/ジェーン・カンピオン監督/Netflix)
『アメリカン・フィクション』(2023年/コード・ジェファーソン監督/Amazon)
『フランケンシュタイン』(2025年/ギレルモ・デル・トロ監督/Netflix)

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