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漆黒のデミグラスソースに宿るもの。純和風なお座敷で洋食が楽しめる、五反田〈グリルエフ〉

明治期に発展した洋食は、昭和の時代に入っても特別なご馳走だった。そうしたハレの日の時間を象徴するお座敷スタイルの洋食店は、時代の移り変わりとともに年々姿を消し、「食の文化財」的存在となりつつある。“今ここにある奇跡”を噛み締めるべく、五反田〈グリルエフ〉を訪ねた。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Yoko Fujimori

糊の利いた純白のクロスが掛かった座卓の上には、銀色に輝くカトラリー。和洋折衷の設えに、日本人のDNAがざわざわと騒ぐ。なんとハイカラな景色だろう。

今やすっかり見かけることのなくなった「お座敷洋食」のスタイルは、かつて花街と呼ばれる界隈に多く存在していた。文人や政界人、地元の名士たちが集い、時には芸者衆を連れて華やかな時間を過ごしたという。当時、洋食は最先端の料理であり、よそ行きでいただくご馳走だった。座敷を残す洋食店は、そんな昭和の時代の煌めきを伝えているのだ。

五反田の〈グリルエフ〉は、1階のテーブル席と対照的な純和風のお座敷の佇まいに感銘を受ける。

和室で座布団に座っていただく洋食は、まぎれもなく日本で育まれた食文化だ。だから改めて空間ごと楽しみたい。そして日々手をかけ、この場所を守り続ける店に感謝を。さあ、襟を正して召し上がれ。

漆黒のデミグラスソースに宿るもの

創業は1950年。おとぎの国のように小ぶりな家具が並ぶ店内は創業時のまま。3代目の長谷川清さんは、初代の斎藤公男シェフの下で学び、48年間この店一筋。「一番おいしいと感じるし、完成しているから」と、初代の味を誠実に守る。

店の命は、創業以来注ぎ足し、漆黒に輝くデミグラスソース。ほろ苦さの後に旨味があふれ、これを堪能できるハヤシライスは一番の人気だ。優美な涙形をしたカニコロッケも名品で、卵を加え黄味を帯びたベシャメルソースが衣の中からとろけ出る。

白いクロスの上でいただけば、丁寧な味わいが際立つよう。そして現在、シェフと副料理長の息子さん2人も厨房に立つ。漆黒のデミグラスは、未来へと受け継がれる。

〈グリルエフ〉の個室
〈グリルエフ〉の、赤絨毯の廊下を進んだ一番奥、洒落た円窓の装飾がある個室。絵画や調度品も先代から受け継いだもの。