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幻の屋久島民謡“まつばんだ”とは?世界中の祭りや音楽を追う大石始が新刊を発表

屋久島に残る民謡“まつばんだ”は、数年前まで一部の島民にしか記憶されておらず、幻の歌と呼ばれていた。これまでに国内外の祭や歌の起源について執筆している大石始が、屋久島の歌の歴史を追った『南洋のソングライン―幻の屋久島古謡を追って』を発表した。

text: Katsumi Watanabe

幻の屋久島民謡“まつばんだ”を求めて

「実は2020年に、執筆の相談があってから、初めて屋久島へ行ったんです。島に降り立った瞬間から、肌が潤うような感覚がありました。空気を吸うだけで気持ちがいいという。これまでに国内外の島へ取材に行きましたが、体験したことのない感覚でした。海はもちろん、山の木々も湿度を保っていて、全身が水分に包まれるような感覚。その中に屋久杉があり、山に対する信仰が芽生えた。そんな環境のもとに生まれた歌が“まつばんだ”なんだと思います」

“まつばんだ”は、琉球音階だが、沖縄のそれとは違う側面もある。起源を探るほど、複雑に絡まる歌の起源に、大石さんも戸惑ったという。

「ピアニストの江草啓太さん、奄美群島の島唄にも取り組む歌い手であるゆうこさん夫婦から“まつばんだ”の話は聞いていました。しかし、島へ行ったこともないし、不安もあった。ところが島で話を聞くうち、歌い手の緒方麗さんがとある場所で体験した“まつばんだ”をめぐる不思議な現象。たまたま出会った漁師さんが歌のヒントをくれたり。予想外の体験が続いた。想像していた屋久島と違う側面を見て、すごくそそられて。島や歌について、もっと知りたいと思ったんです」

島や歌の魅力や歴史を伝える一方、“まつばんだ”誕生秘話に迫るほど、話は二転三転ひっくり返る。それはミステリアスで、謎を解くために動くさまはアドベンチャー的でもある。

「私と一緒に島を巡っていたのは、担当編集の国本真治さん、屋久島在住の歌い手である緒方麗さん。3人とも同じ年で山や海など、あちらこちらへ動くため、大人版グーニーズ的な要素があるのかも(笑)」

大石始『南洋のソングライン―幻の屋久島古謡を追って』