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死と再生の山岳信仰を伝える“よみがえり湯”。名湯の宿〈変若水の湯 つたや〉

山を信仰の対象としてきた日本人。温泉で身を清めて入山した行者も多かったという。霊山の麓の温泉には、今もその気配が残っている。

初出:BRUTUS No.858『温泉♡愛』(2017年11月1日号)

photo: Yasuyuki Takaki / text: Yuriko Kobayashi

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変若水の湯 つたや(月山志津温泉/山形県)

死と再生の山岳信仰を伝える、出羽三山麓の“よみがえり湯”

客室の窓から見える神々しい山々。北に見える湯殿山、それに連なるように聳えるのが月山、その裏には羽黒山がある。出羽三山と総称されるこれらの山は、約1,400年前に開かれたとされる修験道の山。それぞれの山には過去、現在、未来を司る神が祀られ、この三山を詣でることで生まれ変わりを果たせる「擬死再生」の霊山として信仰されている。

月山志津温泉の発祥は約400年前。湯殿山参詣の人々を世話する宿場町として栄え、全国から訪れる参拝者をもてなしてきた。〈変若水の湯 つたや〉もその一軒だ。主人の志田靖彦さんは出羽三山の神社で厳しい修行を積んだ山伏。地元の信仰を知ってもらいたいと、湯殿山に参拝する「朝参り」を随時開催している。

「湯殿山は未来の山と信じられています。三山参りでは羽黒山、月山、湯殿山の順で参拝することを順峰といい、その逆を辿ることを逆峰といいますが、人それぞれ参拝の仕方があっていい。三山すべてを参拝するのが大変な方は、月山の麓で自然の恵みをいただき、空気を吸って、山を感じる。それだけでも十分ですし、もちろん湯殿山だけでもいいんです」

湯殿山本宮へ続く参道から入口の大鳥居
湯殿山本宮へ続く参道から入口の大鳥居を見下ろす。本宮までは徒歩20分ほど。

湯殿山は近代まで女人禁制が敷かれ、今でも御神体の撮影はおろか、見聞きしたことを口外してはいけない「他言無用」のしきたりが残る神聖な山。本宮では死と再生の儀式が行われ、参拝者は擬似的に一度死に、新しい自分に生まれ変わるとされる(詳しい内容は書けませんので、ぜひ参拝を!)。宿の名を〈変若水の湯〉としたのは、よみがえりの山である湯殿山同様、滞在した人がリフレッシュして帰ってほしいという願いからだ。

お湯はというと、源泉は海水の約3倍もの塩分を含むナトリウム泉。皮膚のトラブルが緩和され、つるんとすべ肌になる。まさに「よみがえりの湯」だ。

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