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ニッポン“世界メシ”トレンドの現在。アジアの料理を知り尽くした3人による鼎談〜後編〜

インド亜大陸の料理人と交流が深く、本国の食事情にも精通した小林真樹さん、日本のみならず、現地の中国料理もよく知る中村正人さん、そして世界の辺境料理を食べ歩いてきた坂本雅司さん。最強の布陣で、東京近郊のワールドグルメを、歴史から最新トレンドまで語り尽くします。「ニッポン“世界メシ”トレンドの現在。アジアの料理を知り尽くした3人による鼎談〜前編〜」も読む

photo: Tomo Ishiwatari / illustration: Yoshifumi Takeda / text: Yuko Saito

東京は、現地化した中国
ネパール料理も楽しめる!

坂本

インド、ネパール店で言うと、銀座の〈スパイスラボトーキョー〉や、中目黒の〈ADI〉など、モダン化への流れがある一方で、日本風の居酒屋みたいな店ができているのも、新しい現象だなと思います。

小林

インドやネパールから学生として来日した若い人たちが、日本の居酒屋チェーンでアルバイトとして働いた経験を生かして、起業しているんです。

坂本

先日、〈やるき茶屋〉でのバイト経験を持つインド人店主が開いた、新中野のスパイス居酒屋〈やるき〉に行きましたけれど、メニューが面白かった。タンドリーチキン焼き鳥やカレー味の焼きそばがあったり……。

小林

ネパールにも、日本で言う赤ちょうちんみたいな、バッティと呼ばれる居酒屋があって、大塚駅前には、まさにその名前をつけた〈バッティ ネパール居酒屋〉があるんですが、ここもネパールの若者で賑わっています。

中村

中華にも同じような現象がありますよ。本来、中国は皆で大皿料理を囲むのが伝統なのですが、日本のような小皿の方がいいって、西北料理を小皿料理で出す居酒屋ができています。

小林

料理って、どんどん現地化していくのですが、その現地化されたものが、東京で食べられるのもまた面白い。

中村

マンチュリアンと呼ばれるインド中華も、華僑が多かった、今のコルカタあたりで現地化した中国料理で、東京でも、西大島にある〈マハラニ〉などで楽しめます。

坂本

東南アジアの料理店で珍しいと思ったのは、インドネシア・ジャワ料理の〈モンゴモロ〉。ずらっと並んだおかずを組み合わせて食べるスタイルですが、新大久保から新宿御苑前に移り、さらに広くなりました。

中村

ほかのインドネシア料理に比べて、スパイシーですよね。

坂本

ちょっと濃い感じですね。大久保にバリ島の料理を出す〈ビンタン・バリ〉という店があって、ここの牛肉のカレーなどは、比較的辛め。同じインドネシアでも少しずつ違います。

小林

群馬・館林に〈パミールマート〉というパキスタン料理の店があるんですが、ここはオーナーがアフガニスタンに近いエリアの出身で、同じパキスタンでも、インドと国境を接した地域とは、また料理が違う。プラウと呼ばれる炊き込みご飯もアフガン風で、味つけは塩、ニンニクなど最低限。肉の旨味がダイレクトに感じられます。

中村

ウズベキスタンにも、先ほどの新疆中華にも、プラウと似たような米料理があって、食文化はつながっているんだなと感じます。

小林

インドともつながっていますし。

坂本

さらにその西側の中東では、本人たちいわく、中東料理の元祖だというレバノン料理が、世界でも注目されています。現地では、羊料理とともに、野菜料理の豊富さとおいしさが印象に残りました。野菜の味も濃い!

中村

ジョージアも含めて、カスピ海と黒海に挟まれたコーカサス地方は、気候が温暖で、食材が豊かですよね。

坂本

帰ってきて、日本でも食べたいと思っていたら、中井に〈シュクラン中井〉という店があって。最近、そこから独立したシェフの〈ビブロス レバニーズ レストラン〉④が、浜松町にオープンしました。ここは、バクラヴァなどのお菓子も作っています。料理だけでなく、いろいろな国のスイーツが楽しめるようになったのも、ここ最近の注目すべき流れですね。

浜松町〈ビブロス レバニーズ レストラン〉
浜松町〈ビブロス レバニーズ レストラン〉

在日大使館の料理人だったレバノン出身の店主が、昨年構えた。イタリアンパセリを利かせた麦入りサラダや、ご飯をブドウの葉で巻いた前菜など、爽やかで清潔な味。自家製の菓子も揃う。

中村

中華系も、結構、増えています。中華デザートというと、ゴマ団子などのお餅系か、杏仁豆腐やマンゴープリンのプルプル系が定番ですが、四川の氷粉と呼ばれるゼリー入りのかき氷は、激辛料理で舌が痺れた後におすすめ。四川料理店以外でも、西早稲田の中国茶カフェ〈甘露〉などで食べられます。

坂本

ココナッツミルクベースのジャムをトーストに塗った、シンガポールの朝ご飯、カヤトーストのチェーン店〈ヤクンカヤトースト〉も進出してきたし、高田馬場の新しいベトナムカフェ〈cactus planet〉には、春巻きの皮を使ったデザートがありました。

小林

ミタイ(ミターイー)と呼ばれるインド菓子を扱う店も増えてきました。新大久保のイスラム横丁にある食材店でも置かれるようになりましたし、西葛西にできた専門店〈トウキョウ ミタイワラ〉⑤は、とても流行っています。西葛西にはもう一軒〈デーシーチャートワーラー〉という店もあって。パキスタンのパンジャーブ地方のテイストが入った揚げ団子のような菓子ラッドゥなどを時々、置いています。

西葛西〈トウキョウ ミタイワラ〉
西葛西〈トウキョウ ミタイワラ〉

インド人オーナーがインドの伝統菓子を和菓子のようなギフトとして日本でも広めたいと開いた専門店。牛乳やチーズ、豆の粉などを使った、常時30種以上並ぶミタイは、すべて店の厨房で製造している。

坂本

アジア、中国以外で言うと、最近良かったのは、エチオピア人コミュニティのある四ツ木の〈リトル エチオピア レストラン バー〉ですね。アフリカ料理は、赤坂〈エコ ロロニョン〉や浜松町〈カラバッシュ〉、埼玉の春日部にも数軒あるんですが、多くが西側の料理なんですね。エチオピアには、ほかのアフリカの国々にはないような食文化があって、中でも、発酵させた、酸味のあるクレープのような主食インジェラは独特。

四ツ木〈リトル エチオピア レストラン バー〉
四ツ木〈リトル エチオピア レストラン バー〉

発酵生地の主食インジェラをはじめ、辛い鶏肉カレーなど、エチオピア出身の店主夫人がすべて一から作る。食後は、伝統のコーヒーセレモニーも楽しめる。

中村

発酵文化は世界中にありますね。

坂本

最後に、最近面白いなぁと思っているのが、キッチンカー。東京国際フォーラムなどのネオ屋台村には、ハイチやアルゼンチンなど、いろいろな国の人たちがキッチンカーを出しているので、気軽にこのあたりから世界メシを試してみるのもいいと思いますよ。

小林真樹さん、中村正人さん、坂本雅司さんの3人が注目する東京近郊世界メシMAP