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長井短「優しさ告げ口委員会」:掛け算の人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ、第34回。前回の「こっそりな人」も読む。

text & illustration: Mijika Nagai

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「掛け算の人」

通りがかった韓国料理屋に行った時、私は本当にクタクタで、わけもわからずタッカンマリを注文した。食べたことないし、どんなものかもよくわからない。ただ温かいものを食べたかった。連日の撮影で身体は重いし、塗っては落とすファンデーションで肌もガサガサしている。

ため息をつくと、それを掻(か)き消すように奥に座っているお母さんが韓国語で何かを捲(まく)し立てた。耳に声が届くのに、何を言っているのか全くわからないことに不思議と心が癒やされる。ぼーっとしてるとすぐに届いたタッカンマリは白く濁った鍋で、見ただけでこれが食べたかったんだと確信した。触れただけで崩れそうなジャガイモは甘く、硬くなった血管をほどく。

長井短「優しさ告げ口委員会」:掛け算の人 イラスト

料理に身を任せていると、店員のおじさんがゴンッとテーブルに何かを置いた。「マッコリ、乳酸菌。タッカンマリ、コラーゲン。これで美肌」。それだけ言って満足げに去っていく。……え?飲んでいいってこと?厨房に目をやると、笑顔でこちらを見ている店員さんがいる。

タッカンマリの汁を一口飲んでからマッコリを飲むと、はいはいはい。もう伝わってきます。体内で起きる化学反応。完全に栄養ブーストがかかっている。労いが止まらない。私、そんなに疲れた顔してたかな?って少し恥ずかしくなりながらも、初めてきたお客にこんな心遣いをしてくれるお店に感謝が止まらなかった。

身体が温かいのは、もちろん料理とお酒だけのおかげじゃない。乳酸菌×コラーゲン×思いやり=明日への活力で、昨日の私と今日の私も掛け算される。私もこんな風に、誰かに掛け算をもたらせる人になりたい。

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