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グラフィックデザイナー・小林一毅の好きな器と、その付き合い方

個展に並んで手に入れた若手作家の器、旅先で一目惚れした骨董品、知人からもらった思い出深い一皿……器には、一つ一つに使い手のストーリーが詰め込まれています。カジュアルに楽しむ新世代の器好きグラフィックデザイナー・小林一毅が語る、とっておきの逸品と、その使い方。

photo: Jun Nakagawa / text: Masae Wako

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伝統的な蒔絵(まきえ)とモダンなグラフィックを組み合わせた漆椀

真塗(しんぬ)りと呼ばれる上質な塗りの椀は、福井県鯖江(さばえ)市の〈ろくろ舎〉製。内側には僕がデザインした“ウナギ”が蒔絵で描かれています。グラフィックを考える時はいつも、「おいしそうに見える」ことを大事にしているのですが、ウナギの柄は気分が豊かになるし、食欲がそそられる。

お吸い物をなみなみ注いだ中にこの丸い曲線が見えたら、縁起もいいし面白いかな、と。ご飯をしっかりよそってもいいし、おひたしの小鉢にしてもいい。使い続けると箔が削れて下の塗りが見えてくると思いますが、それって愛用した証しですよね。

蒔絵を手がけたのは80歳くらいの職人さん。僕の絵を見ながらフリーハンドで描いてくれました。漆の器は素敵だけれど、ちょっと敷居が高くて僕たちの生活にはまだ馴染みきっていない。グラフィックの文様を品よく取り入れることで、日用の器としての可能性も広がる気がしています。

〈ろくろ舎〉の椀
漆器の産地・北陸の技を生かした〈ろくろ舎〉の椀。
〈ろくろ舎〉は漆器の木地師でもある酒井義夫が営むブランド。ウナギの椀は、伝統的な漆椀をベースに塗りや柄をカスタムできる「オンリー椀」シリーズとして作られた。「真塗りの漆はそれ自体がとても美しいので、外側は無地のまま。外から見ると穏やかな景色だけれど、中を覗くとハッとする点が気に入っています」

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