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マニアによる知られざる偏愛博物館談議。博物館マニア・丹治俊樹×庶民文化研究家・町田忍

休日のすべてを博物館探訪に費やす丹治俊樹さんと、50年以上庶民文化への研究を続けてきた町田忍さん。博物館を骨の髄まで知る2人が偏愛する、ひとクセもふたクセもある博物館とは?

photo: Aya Kawachi, YUTA / text: Emi Fukushima / edit: Asuka Ochi

2人合わせて巡った博物館は1,000以上!

町田忍

最近、博物館とかマニアックなコレクションに若い世代の関心が集まっているみたいですね。丹治さんはどうして博物館に興味を持ったんですか?

丹治俊樹

僕の場合は、静岡の伊東にある怪しい少年少女博物館がきっかけですね。そこで珍スポット熱が開花してしまって(笑)。

町田

最初にあそこに行っちゃったの⁉
それは、ハードルが上がっちゃうはずだ(笑)。

丹治

確かにいろんな博物館に足を運んだ今振り返っても、あそこはずば抜けてキャラの濃い場所ですね(笑)。

町田

1ヵ所だけでは場所が足りないからと、オーナーがもう1個姉妹館を作っちゃったのが、2011年に開館した〈まぼろし博覧会〉。古代文明の遺跡から聖徳太子像、昭和のゲームや人形まで、とにかくぎっしり並んでいましたよ。

丹治

ああ、まだ行けていないんです!でもまさにあの可笑しな世界観をきっかけに、ディープなものに惹かれていって、以来博物館も巡るようになって。

町田

そうなんですね。

丹治

何かを知るには本を読んだり映像を観たりといろいろな方法がありますが、僕の場合は、生の声で話を聞いたり、展示を見たり感じたりする情報の得方が、一番刺さったんですよね。

町田

それは僕もそうだなあ。生の声を聞くことの方が、琴線に触れるんですよね。だから、格式張ったものより、たとえこぢんまりとしていても、収集した人の生き方や考え方が反映されたところの方がより好き。

丹治

そうですね。特にコレクターの人たちってなかなか激動の人生を歩んでいることも多いですし、「あ、こういう人生あってもいいんだ」とちょっと勇気をもらえることもあります(笑)。

まぼろし博覧会(静岡/伊東市)

ユニークな博物館の裏に
誰かの熱い情熱あり

丹治

例えば、〈天領日田洋酒博物館〉はコレクターの生きざまがまさに表れている博物館。館内にはおよそ3万点の洋酒が並んでいて、ニッカウヰスキーの製造過程で実際に使われていた本物の蒸留窯など、ものすごく貴重なものもあるんです。これらはすべて、館長の高嶋甲子郎さんが何と中学生の頃から40年ほど収集してきたもの(笑)。

町田

中学生はお酒が飲めないはずだけど(笑)。

丹治

大人がウイスキーを飲んでいる姿のかっこよさに憧れて、火がついたそうです。商売人の家系だからか、伝書鳩を育てて売ったり、オリジナルTシャツを作って後輩に売りつけたりとか、10代の頃からあの手この手でお金を得て洋酒を買い続けていたらしくて。

ただ、数年前に会社が全焼して経営は火の車だし、全く洋酒のことに興味がない奥さんとは「首の皮一枚でつながっている」状態とのこと(苦笑)。そこまでしてでも洋酒にかける熱意がすさまじいなと。

町田

奥さんが収集に興味がないのは、うちも同じですね(笑)。

丹治

(笑)。館長の生きざまが詰まった博物館というと、町田さんはどこを思い浮かべますか?

町田

早稲田にある〈木組み博物館〉かな。伝統的な木造建築の技術、木組みをテーマにした博物館で、縄文時代から現在までのありとあらゆる木組みの模型を展示しているんです。館長の谷川一雄さん自身も、神社仏閣の木組みを手がける当事者。木組みへの思いを直接語ってくれたり、実際の木組みを見に近くの神社を案内してくださったりと、その熱い説明に胸を打たれましたね。

丹治

うわ〜、めちゃくちゃ面白そうです!

町田

あと、公立の博物館なんだけど、一人の学芸員の思いで館の様相が一変したのが〈昭和日常博物館〉。もとはよくある地域の歴史民俗資料館だったんですが、今では昭和の街並みがそのまま再現された唯一無二の空間になっていて。

手がけたのは今は館長になった市橋芳則さん。地元で古い店が廃業するたびに、生活道具や看板、時には店を丸ごともらってきて展示するようになって。今はほとんど昭和にまつわる展示で埋め尽くされちゃった(笑)。公立博物館の成功例として全国の自治体から見学に来るそうなんですよ。

丹治

へえー!

町田

もっとすごいのは、回想法に関する事業を生み出したこと。昭和の生活道具を高齢者施設などに一式貸し出すんです。そしてそれを見ながら思い出を語ってもらうと、うつ病や認知症にもいい刺激になるらしくて。

丹治

一人の学芸員の思いで、ここまで変化するなんてすごい。やっぱり、博物館を作っているのは「人」なんですね。

天領日田洋酒博物館(大分/日田市)

木組み博物館(東京/早稲田)

昭和日常博物館(愛知/北名古屋市)

16万枚のレコードから
北朝鮮の工作船まで

丹治

あとは、展示物そのものにとてつもない威力や迫力がある博物館もありますよね。

町田

有名どころで言えば〈目黒寄生虫館〉。何といっても見どころは全長8.8mのサナダムシでしょう。あれが人間のお腹に寄生していたというから驚き。丹治さんはどこが思い浮かびますか?

丹治

僕は〈音浴博物館〉ですね。スマホの電波も届かないような長崎の山奥にある廃校を利用した博物館なんですが、扉を開けると目に入るのは16万枚にも及ぶレコードの山!館内5ヵ所に自由に操作できる再生機が設置されていて、ひたすら音楽に没頭できる。8時間くらい滞在する人もいるみたい(笑)。

開館当初の収蔵数は5万枚程度だったらしいんですが、各地から寄贈されて、今や16万枚まで膨らんだそうで。

町田

あ、集まってきたんだ。僕の庶民文化研究所にも、昔の喫茶店のマッチの空き箱とか映画の半券とかが届くことがありますよ。収集している人のもとに、砂鉄のように自然とものが吸い寄せられてくるというのは、どこも同じなんですね(笑)。

丹治

そういうものなんですね。あとは、〈海上保安資料館横浜館〉に展示されている北朝鮮の工作船にも圧倒されます。

町田

ああ、あるね!

丹治

2001年に日本の排他的経済水域で見つけて、海上保安庁との交戦状態を経て最終的に自爆と思われる爆発を起こした船で。海上保安庁が威嚇射撃で船の先端と後端に正確に当てた弾痕が残っています。最初は船の科学館に展示されたんですが、巡り巡って海上保安庁の広報活動の一環として、みなとみらいで展示されていて。

Googleマップのクチコミには、デートでみなとみらいに行ったものの、一番の目的はここだった、との書き込みもありました(笑)。

町田

渋いデートですね(笑)。ここは海上保安庁の博物館だけど、大企業が手がける場所にも面白い展示がありますよね。例えば〈TOTOミュージアム〉は、歴代の便器がずらっと並んでいて圧巻でした。

目黒寄生虫館(東京/目黒)

音浴博物館(長崎/西海市)

海上保安資料館横浜館(神奈川/横浜市)

TOTOミュージアム(福岡/北九州市)

「ありふれたもの」の
集積にこそ価値が生まれる

丹治

町田さんは普段、博物館をどうやって探していますか?僕はGoogleマップで、ひたすら中心をずらしながら博物館を検索していくんですが……。

町田

さすが若い!僕は行き当たりばったり。旅のついでに地元の人に聞くという方法が一番多いです。

丹治

確かに、それが確実な方法かもしれませんね。どんなに地域にひっそりとあるようなささやかなテーマを扱った博物館であっても、今の世の中になるまでにどんな経緯があったのかを知れることが僕は嬉しいなと。TOTOのトイレ一つにしても、今の形になるまでにこんなにも苦労があったのかと知ることができる。積み重ねに触れられることが醍醐味だと思っています。

町田

そうですね。あと博物館で面白いのは、並んでいるものが『なんでも鑑定団』で高値がつく美術品だけではないこと。僕たちの生活は、実は消耗品で成り立っていて。本当の意味でありのままの生活を記録していくには、ありふれたものほど残さないといけないんですよね。

丹治

そうですね。誰かの意志があって初めて残せるものが展示されていることに、意味があるのかなと思いますよね。

町田

あ、それで言うと、日本橋のボタンの博物館も良いよ!

丹治

まだ行けていないんですが気になっていました!

町田

あと、アメリカには霊柩車の博物館があるらしいんですよ!

丹治

え、それは面白いですね!……と、挙げだしたらキリがなくなっちゃいますね(笑)。

博物館マニア・丹治俊樹、庶民文化研究家・町田忍
左/丹治俊樹(博物館マニア)、右/町田忍(庶民文化研究家)