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ディスプレイまでの舞台裏。ミュージアムの裏側をつくる仕事に迫る!

貴重な展示の数々は、多くの人の手によって成り立っている。ミュージアムの裏側をつくる仕事。

text: Ryota Mukai / edit: Asuka Ochi

絵画を保護・分析する

日々、作品の保存について考え、
時に科学的知見を生かした作品調査を行う。

国立西洋美術館には「保存科学室」なる部署がある。作品の劣化を防ぐために環境を整え、各作品にとってベストな環境を知るためにも材質や技法を調査する、専門的な仕事だ。日々の業務や調査方法について、同部署に16年勤める髙嶋美穂さんに話を聞いた。

「仕事の中心は“予防保存”。油絵なら室温約20℃、相対湿度は50〜55%ほどに保ちます。その測定・記録には“自記温度記録計”という機器を使用。センサーは人毛で、湿度変化により毛が伸縮する性質を利用しています。ちなみにこの毛は金髪がベターといわれています。黒髪に比べて湿度変化に敏感なんです。そして“保存”にも資する“作品調査”について。例えば、調査の際に作品表面に紫外線を当てるだけでも後世に足された絵具が判別できることがあります。

近年は、X線を使って《悲しみの聖母》の聖衣に塗られた青色の原材料を探りました。結果は、半貴石のラピスラズリから作る天然ウルトラマリンブルー。この絵具はルネサンス期のイタリアにおいては金と同じ価格で取引されていたといわれ、本作が描かれた17世紀にも高価なものでした。リッチな一枚なんです」

「蛍光X線分析」で絵画を丸裸に!

東京〈国立西洋美術館〉保存料学室
《悲しみの聖母》を「蛍光X線分析」中。X線を照射し、放射される蛍光X線を測定。すると、照射した部分に含まれる元素がわかり、絵具の材質を推定できる。写真提供:国立西洋美術館

展示をデザインする

企画意図を研究員にヒアリングし、
図面を描き、模型を作って、
展示物をどこにどう置くかを提案する。

東京国立博物館には日本の博物館には珍しい、展示デザインを専門に行う部署がある。20年近く働く矢野賀一さんにその業務内容を教えてもらった。

「研究員の展示企画を空間にするのが私の仕事です。企画の核になる作品が来場者に伝わるよう気を配りながら、図面を描き、時には模型を作って三次元で構築していきます。壁や展示ケースで通路を作るだけでなく、入口や室内のどこからでも展示室を広く見渡せるようなレイアウトを心がけています。そうすることで、お客さんが気に入った作品を見つけて、展示室で長く過ごしてくれたら嬉しいですね。巨大な彫像を配置する時は、置き直しが困難なので実物大のダミーを作り現場でシミュレーションすることもあります。

また、作品を展示するケースのサイズや機能を整えるのも欠かせない仕事の一つ。その機能は、照明といった見せ方から、除湿・空気循環・耐震など作品保護に関わるものまでさまざま。展示ケースは大抵はオーダーメイドで、とても高価なものも少なくありません。

特に近年は“高透過低反射合わせガラス”という、映り込みが少なく透明度が非常に高いガラスを使ったケースを採用しています。おかげで作品をより集中して見ることができるようになっているはず。ぜひ作品だけでなくガラスにも注目してほしいですね」

透明ケースは、展示物を際立たせる名脇役だ。

復元模型を作る

研究の最前線を知る監修者との二人三脚で、
リアリティいっぱいに恐竜の姿を再現する。

小さな恐竜模型は、肉付きや体色、顔の作りなど骨格標本ではわからない細部を教えてくれる。福井県立恐竜博物館にある復元模型をはじめ、30年にわたり全国のミュージアムで活躍を続ける恐竜造形家・荒木一成さんにその仕事について尋ねた。

「オファーをいただいたら、資料を基にイラストを描きます。肉付き具合を検討したり、ポーズを決定するんです。その後、針金で骨格作り。胴体など太さがあるところは発泡スチロールで芯を形成し、その上に粘土をつけて顔や指先など細かな調整を続けます。監修者に確認してもらい、必要があれば修正して、最後に着色。色の選択がなかなか曲者で、研究が進むにつれ次々に定説が変わっていくんです。それもまた面白いところです。

模型は見る位置によってさまざまな表情を楽しめるのが魅力。どの角度からも自然に見えるよう、粘土を曲げて偶然生まれるシワを皮膚に生かしたり、開口した恐竜も歯が噛み合うよう気をつけています。かつての恐竜模型は恐ろしく見せるために、迫力はあるけれど噛み合わせが悪い口が多いんです(笑)。そうしたリアリティはもちろん、近年は穏やかな表情をした模型が増えています。怖いだけじゃない、いち動物としての魅力が注目されつつあるのです」

フクイベナートルの模型ができるまで