『現代アメリカ文学選集8』
(ソーントン・ワイルダー「サン・ルイス・レイの橋」収載)
強い力を持った小説だ
「一七一四年の七月二十日、金曜日の正午に、ペルウで最も美しい橋が壊れた。その上を歩いていた五人の人間は深い谷底の淵へ落ちた」という簡潔な文章で始まるソーントン・ワイルダーの感動的な中編小説「サン・ルイス・レイの橋」。
イタリアから布教のためにペルーに赴いていた一人の神父が、その事故を目の当たりにして、深い衝撃を受ける。彼自身、まさにその橋を渡ろうとしていたところだった。そしてひとつの疑問が彼の心に浮かぶ。「なぜあの五人にだけ災難が降りかかったのだろう?なぜ私ではなかったのだろう?」と。それは神が決定したことなのだろうか?もしそうであるなら、その理由は?
そして彼はその5人の犠牲者が置かれていた背景を調べ始める。6年をかけてリマ市のあらゆる家を訪ね、質問を浴びせかけ、ノートを5人に関する記述で埋め尽くしていく。そして明らかになったのは……。
僕は『アンダーグラウンド』というノンフィクションを書いているとき、いつもこの小説のことを思い出していた(僕の場合は1年をかけて62人の被害者にインタビューをしただけだったが)。強い力を持った小説だ。