『アメリカン・スクール』
人々のうずうずした感情を描いていく筆致に感心したことを覚えている。
この本は京都の古書店で見つけた。みすず書房から昭和30年に刊行されたソフトカバーの初版。表紙に「芥川賞作品」ととても小さく印刷されている。今ならもっと大々的に宣伝するのだろうが。値段は数百円だったと思う。この本を手にできて、とても嬉しかった。
僕が初めて『アメリカン・スクール』を新潮文庫で読んだのは大学生のときで、さっぱりした簡潔な文体で、人々のうずうずした感情を描いていく筆致に感心したことを覚えている。この当時の小島信夫は、「困った環境」に追い込まれた普通の人の姿を描かせると、本当にうまかった。
これは「第三の新人」作家全般について言えることだが、戦争から解放され、何にもない焼け野原みたいな戦後にぽいと放り出され、弱りはてながらも「でもまあ、これでよかったのかも」とほっとしている気持ち(解放感)が、彼らそれぞれの文体を新鮮で共感できるものにしている。私小説的な湿気がすっと抜けているところが、僕は好きだった。