『A Moveable Feast』
読んでいて、複雑な気持ちにさせられるメモワールだ
この本は丸谷才一さんからいただいたもの。といっても直接いただいたのではない。氏が亡くなられたあとご自宅に弔問に伺ったとき、ご子息に「村上さん、よかったら、父の書庫からお好きな本を持っていってください」と言われ、英語の原書の並んだ棚から、面白そうな本を紙袋いっぱい、遠慮なくいただいてきた。
書棚を見ると、「丸谷さんは本当によく勉強されていたんだなあ」と感心してしまった。とても趣味の良いコレクションだった。このヘミングウェイ『移動祝祭日』もその中の一冊だ。
この本にはスコット・フィッツジェラルドのことがたくさん書かれているが、どちらかというとあまり良くは書かれていない。酒害に苦しむスコットの姿を、ヘミングウェイは ーいくぶん上から目線でー 憐れむ。しかしやがては彼自身もアルコールに溺れ、自ら命を絶つことになる。読んでいて、複雑な気持ちにさせられるメモワールだ。