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村上春樹の私的読書案内『Rider’s New York City』

村上春樹が自宅書棚から選んだ、手放すことができない51冊の本。私的な読書案内文と共に。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Haruki Murakami

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『Rider’s New York City』

説明が微に入り細を穿っている。それも尋常の詳しさではない。

これは神田の北沢書店でたまたま見つけたもの。刊行は1924年になっている。今回挙げた書物の中では最も古いものだ。この本はニューヨークの案内書=旅行ガイドなのだが、かなり分厚いもので、説明が微に入り細を穿っている。

それも尋常の詳しさではない。主だったビルのひとつひとつの間取りから、床に敷かれた大理石の質まで懇切丁寧に説明してある。この本を読めば、1924年のニューヨーク市にタイムスリップしたような心持ちになれる。

スコット・フィッツジェラルドが『グレート・ギャツビー』を出版したのは1925年、このガイドブックが作られた時期にぴったり合致する。この小説はニューヨーク市を重要な舞台のひとつとしており、翻訳するときにはこのガイドブックがことのほか役に立った。しかしいったいどうやってこのような貴重な本が神田の古書店に流れ着いたのだろう?興味深い。

『Rider’s New York City』Woody Allen/著

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