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村上春樹の私的読書案内『“If They Move... Kill’em !”』

村上春樹が自宅書棚から選んだ、手放すことができない51冊の本。私的な読書案内文と共に。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Haruki Murakami

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『“If They Move… Kill’em !”』

人間の業みたいなものを痛感させられる

サム・ペキンパーは僕が愛する映画監督の一人だ。かなり無茶苦茶な人生を送った人で、酒害なんかも背負い込み、そのために作品の出来にかなりムラはあるが、良い物は滅法良い。その伝記が出たので、すぐに買って読んだ。いや、これ、ほんとに面白い伝記です。

人間の業みたいなものを痛感させられる。ペキンパーはデーモンに追われるように次々に傑作、野心作を生み出し、そしてその同じデーモンに心を蝕まれて次第に暗闇に落ちていく。

タイトルは『ワイルドバンチ』の冒頭のシーンで、ウィリアム・ホールデンが部下に下した命令、「動くやつがいたら……殺っちまえ」。実にタフでハードな映画だった。

流血シーンの多さは当時問題になった。「どうしてこれほどたくさん血を流さなくちゃならないのですか?」とある女性記者が質問した。出演者のアーネスト・ボーグナインがうんざりした顔で答えた。「レイディー、あなたは銃で撃たれて血を流さなかった人を見たことあります?」

『“If They Move... Kill'em !”』David Weddle/著

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