『リタ・ヘイワースの背信』
「そうか、こんな風にも小説が書けるんだ」
僕はこの本を外国に向かう飛行機の中で読んだのだが、あまりに面白かったので、そしてまた自分が何か大事なものを読み落としたのではないかと心配になったので、いったん読み終えた本を、すぐにまた最初からもう一度読み返すことになった。そういう本ってあまりない。
それからずいぶんプイグの小説に凝って、彼の小説を片端から読んでいった。『蜘蛛女のキス』もすごくよかったけど、どれか一冊ということになると、やはりこの『リタ・ヘイワースの背信』(彼にとっての処女作だ)を選びたい。
プイグは1932年にアルゼンチンの小さな町に生まれたが、マッチョな風土にどうしても馴染むことができず、映画館に通って、映画の世界にどっぷり浸って生きるようになる。フィクションが現実の中に雑然と入り込み、現実がフィクションの中に雑然と入り込む。この時代のラテン・アメリカの小説は「そうか、こんな風にも小説が書けるんだ」という新鮮な驚きを与えてくれた。