『ロード・ジム』
『ロード・ジム』を読破するのは僕の積年の望みだった
実を言うと、僕は何度もこの長編小説を読み通そうと試みた。コンラッドは僕の好きな作家なので、代表作である『ロード・ジム』を読破するのは僕の積年の望みだった。でも既訳の日本語の文章がどうにも読みづらくて、何度も挑戦しては途中で挫折するというのを繰り返していた。コンラッドの英語はかなり骨があり、クセもあって、翻訳するのはまったく簡単ではない。
でも河出書房新社・世界文学全集の中の一冊として、柴田元幸訳『ロード・ジム』が刊行されたおかげで、僕はようやく念願の完読にこぎ着けることができた。柴田さんの訳はいつもながら実に読みやすい。そしてどこまでも正確だ。
『ロード・ジム』、面白くて味わい深い小説です。異国の地で、過去の罪を背負って生きていかなくてはならない一人の男の、痛切にしていくぶん場違いな、それ故に高潔・純粋と言えなくもない人生。コンラッドはその様子をどこまでも克明に、陰影豊かに描き上げる。