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あの人の、いつもの朝ごはんVol.4 紺野真

朝ごはんは家族と一緒に。好きなものを好きなだけ食べる。お気に入りの店で至福のひとときを過ごす。和食に洋食、朝パフェ、朝ラー、朝カレー。過ごし方も違えば、食べるものも違う。だけどみんな等しく、朝食が大好きなんです。

Photo: Norio Kidera / Text: Kei Sasaki

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豊洲市場に仕入れに行く日は、朝6時過ぎには自宅を出ます。毎晩、戦争のような営業を終えて帰宅するのが深夜0時過ぎ。早起きも、往復で約2時間の道のりも決して楽ではないけれど、2日に1回は足を運ぶ。市場が好きだからなんだと思います。

買い物の後、市場の食堂や喫茶店で朝ごはんを食べることは、僕にとってのささやかなごほうび。かつて築地の場内に軒を連ねていた店が、豊洲に移転した今は立派な建物の中にあります。あの歴史が染み込んだ店構えが失われてしまったのは少し残念だけれど、人や味は変わらない。繰り返しお邪魔するのは、市場で働く人たちが集う店。食のプロたちが集まる店には、味だけじゃない、何かがある。

例えば〈やじ満〉では、若女将の谷島仁美さんのキビキビとした接客に元気をもらいます。常に柔らかく低姿勢で、店への誇りも感じる。常連客の多くは頼むものが決まっているのですが、仁美さんはそれを全部覚えている。大盛り、薬味あり・なしといったディテールまで。

〈やじ満〉塩ラーメン
〈やじ満〉で塩ラーメン。

僕が市場に通い始めたのは9年前、まだ築地にあった頃。最初は右も左もわからず、誰からも相手にされなかった。それでも毎日のように通ううちに、顔を覚えてもらい、声をかけてもらえるようになった。「今日はいいのあるよ」と。ここはプロとプロが真剣勝負の商いをする場。お金以上に信用がモノをいう世界。お客が座った瞬間、すらすらとオーダーを通す仁美さんの姿もまた、人対人の商いを象徴していると思います。

〈やじ満〉の塩ラーメンと搾菜炒飯

シュウマイが名物
メニュー豊富な良心の中華屋

全品制覇したけれど何を食べてもおいしく、品書きの短冊に書かれたおすすめコメントも秀逸。一番リピートしているのが、塩ラーメンと搾菜炒飯。シンプルかつパンチもあって、ふと思い出し食べたくなる味です。

塩ラーメンは「ラーメンホワイト」、目玉焼きのせは「一つ目のせ」と、注文を通すとき隠語を使うんですよね。カウンターに座った瞬間「ラーメンホワイト、麺硬、薬味抜きですね?」と初めて言われた時は、市場の一員になれたようで嬉しかった。

〈岩田〉のオムライス

カレーにナポリタン
喫茶の定番が揃う

いつもスマホを見ている僕が、ここではスポーツ新聞を広げたくなる。市場を代表する名喫茶には、人の行動様式さえ変えるムードがあります。喫茶の定番メニューは、どれも昔ながらの正しい味で、新たに加わったオムライスも懐かしいおいしさ。

実は店に立つ岩田牧さんは、僕の高校時代の先輩。高くチャーミングな声に「あれ?」と思い、おそるおそる店員さんに尋ね、「やっぱり」となった日の衝撃は忘れません。以来、牧さんと世間話をするのも楽しみです。

〈センリ軒〉のヒレカツサンド

シチューにソフトクリームも
市場の憩いの場

喫茶店でサンドイッチを食べながら考え事をするのが好きなので、サンドイッチメニューが豊富な〈センリ軒〉さんにもよくお邪魔します。

僕の定番はからしのアクセントが効いたシンプルなハムキュウトースト。テイクアウトもできる名物のヒレカツサンドをスタッフへのおみやげに買って帰ることもあります。寒い季節によく食べるのが半熟卵入りのクリームシチュー。身も凍るような市場の冬に、心まで温めてくれる一品です。コーヒー風味のソフトクリームも旨い。

〈小田保〉の冷やしとんかつ茶漬け

味にもボリュームにも
大満足のとんかつ店

定食やカツカレーはボリュームもド迫力。量だけでなく味も素晴らしく、熟練の職人さんの仕事の確かさ、“揚げ”の技に感動します。アスパラのフライを食べた時は、自分のアスパラの調理法に改めて思いを巡らせたほど。

夏限定の冷やしとんかつ茶漬けは、ストリートフードとガストロノミーの融合ともいえる一品。ベーシックから創作まで、説得力のあるおいしさはさすが。市場の人が通い詰める店の代表格で、マグロのほほステーキ定食など、日替わりも充実。

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