Eat

Eat

食べる

最果タヒ、みうらじゅんの忘れられない朝食の話

きっと誰にでも、忘れられない朝食がある。子供の頃に毎日食べていた母の味、旅先で食べた特別な朝食……。今はもう食べられないけれど、思い出すだけでお腹が満たされる。そんな朝ごはんの思い出を、最果タヒ、みうらじゅんが綴る

初出:BRUTUS No.920「最高の朝食を。」(2020年7月15日発売

Illustration: Kenji Asazuma

最果タヒ 
二度寝の代わりの朝マック

爽やかな朝など知らない、朝は世界が爽やか気分になっているだけで、それに置き去りにされるような私がしんどい気持ちになるのは当然で、むしろ不健康なことがしたくなる、私の日常はプラスチック製ではないということを証明するために。私はジャンクな朝ごはんを好む。

朝マックが好きだ。例えばあのマフィン。なんだか分からないのだが、なにか異様においしい。ジャンクフードはおいしいと思ったときに「これは本当においしいという言葉で合っているのか?」と思うところがいい。

あまりにも味覚における快感が強くて、文脈が無視されるからだと思う。健康に良いとか、朝の爽やかさとか、それらは文脈として朝ごはんを美味しくする要素なのだが、それらをぜんぶ蹴飛ばして、チーズ!塩分!肉!となる朝マックに癒される。なんで朝から健康とか考えねばならんのだ。

最果タヒ「二度寝の代わりの朝マック」イメージイラスト

「寝る」という行為も全てを放棄する感じがして心地いいが、それに近い。朝マックは二度寝みたいなものだ。脳をもっかい寝かしてあげる。

コロナの自粛期間、家に閉じこもっていた私は何度も朝マックを食べたいと思った。自粛が終了し、まず朝マックを買いに出たんだ。朝食のために外に出るなんて「健康的すぎる」という恐怖もあったが、しかし目的地はマックである、朝マックである、朝が、健康や爽やかさなんかではなく私の欲望のためだけに存在していた。

心にとってこんなにも「健康的な朝」ってきっとないと思うのです。

みうらじゅん 
起き抜けラーメン道

就職先も決まらぬまま、なし崩しで自由業に突入した僕には基本、朝という感覚がなかった。
大概は夜中から漫画や原稿を書き始めていたので、朝は寝る時間。一時期、東海テレビ制作の昼メロにハマっていたことがあって、それを見てから寝てたんで、起きだす頃にはすっかり夜になっていた。

当時、付き合っていた彼女が会社から帰宅する時間にうまく合えば、会うなり開口一番「ラーメン、食いに行こ」が僕の口癖だった。何度かつき合ってくれたけど、「よくもまぁ、起き抜けにラーメンが食べられるわね」と、呆れ顔で言っては「もう、私、無理だから」が出た。

「じゃ、つけ麺にしよう!」と提案したが、「そういうことじゃないよ」と、彼女は言う。僕は昔っから腹が減るとイライラするたちで、「もういい!誘わないから」と以来、ひとりで食べにいくことにした。

みうらじゅん「起き抜けラーメン道」イメージイラスト

身体にはよくないことは分かってる。でも、よくないことをしてこその“ロック”だと思ってたソー・ヤングな頃。そんな生活を続けてたらやっぱりバチが当った。潰瘍を患い、手術は逃れたが病院通いの日々。

「野菜を食べなきゃダメ」、彼女が会社帰りに買ってきてくれたものを一応、朝食として食べた。「何だこのシーザーなんちゃらは」、小洒落た名称にブツブツ文句を言う癖は未だ治っちゃいない。