元ビームスバイヤーの2人が
高円寺に新ショップをオープン
テリー・エリスさんと北村恵子さんといえば、民藝好きにはお馴染みの2人。〈BEAMS〉のレーベル〈fennica〉を立ち上げるなど、手仕事の魅力を広めてきた敏腕バイヤーだ。2022年10月、彼らが初めて営む店〈MOGI Folk Art〉がスタートした。舞台は古着好きの聖地、高円寺。2人が接客する店内には、国内外各地の器やクラフト、オリジナルのニットや古着が並んでいる。そんな2人のもの選びに触れ、「今までとは違う買い物スイッチを刺激される」と語るのは、ショップのロゴをデザインした〈パピエラボ〉の江藤公昭さん。高円寺の新名所になりそうなこの店の魅力を3人が紹介。
江藤公昭
店に入った瞬間、カッコいい器と洋服とアートが目に入り、脳内も気持ちも一気に盛り上がりました。2人が選んだのはどんなアイテムなんですか?
北村恵子
いちばん多いのは時代も産地もさまざまな日本の器。の陶芸家・濱田庄司が制作した皿もありますし、今の窯元や作家さんに別注したマグや花器も並びます。あとは私たちが長い時間をかけて集めてきた世界各国の民芸品やクラフトと、古着やオリジナルの服。民藝や古いものを扱う店とアートギャラリーの中間のような場所にしたくて、店名に「フォークアート」と入れました。
江藤
ビームスから独立して初めて開く店の場所を、高円寺にしたのはなぜ?
北村
20年ほど前からよく2人で中古レコード店や古着屋巡りをしていた町なので、馴染みがあったのかな。
テリー・エリス
昔ながらの商店街があって下町っぽい雰囲気が残る一方で、洋服や古着が好きで好きでたまらないマニアックな人も集まってくる。そこが大きな決め手でした。例えばウチでは、50〜60年前に作られた沖縄の焼き物を扱っています。骨董といえるほど古くはないし、まだそこまで注目されていないのだけど、僕らはとても良いと思ってる。そういう、すごくカッコいいのに評価が定まっていないものも、古着が好きな人なら興味を持ってくれるだろうと考えたんです。
北村
実際、古着屋巡りの途中で「なんの店かな?」って立ち寄っただけの人が、器の背景にある職人の物語やもの作りの歴史に関心を持ち、私たちの話をじっくり聞いてくれることも多いんですよ。
江藤
わかります、2人のもの選びから伝わる愛情やマニアックさは、服好きにもモノ好きにも響くと思う。加えてこの店には、自由に軽やかに選べる喜びがあるなあというのが僕の印象。堅苦しさがないというか、雑食できるというか。
エリス
雑食?
江藤
そう。好きなモノをいろいろ食べられる感覚。器を見に来たはずが気づいたらジャケットを買っちゃってたけどそれでOKみたいな楽しさがある。予期せぬものと遭遇できる幸せです。
エリス
その感想はうれしいな。ファッションの世界では、ここ20~30年でブランドものも古着も垣根なくミックスすることが定着しましたよね。一人の人が選ぶ服なら、あれこれ混在していてもカッコよく馴染む。この店で目指しているのも同じです。僕らが作る世界観の中で、服も器も境界なく選んでほしい。
江藤
しかも単純に「器も服もあるよ」じゃない。ものの魅力がギュッと凝縮された良品ばかりで興奮せずにいられません。何十年かぶりに味わった感覚です。
忘れられた名品も再紹介
江藤
沖縄のやちむん(焼き物)や益子焼の器などを扱うレーベル〈fennica〉を、2人が始めたのが約20年前。気軽に入れなそうな専門店以外にも民藝が買える場ができて、若い子や器に詳しくない人も「民藝って自分たちの器でもあるんだ」と思えるようになった。〈MOGI Folk Art〉にも、そういう、最初の一歩を切り拓こうという空気を感じます。どんな基準でものを選んでいるんですか?
エリス
僕らはビームス時代からずっと「WHAT'S NEXT?」と聞かれ続けてきたんだけれど、「次に何が売れそう」ではなくて、今、これがいちばんいいと思うものを紹介してるだけなんです。
北村
気になる土地へ行って「こういう郷土玩具があるんだ」「この伝統柄、いいね」と、2人の気持ちに響いたものをピックアップする。マーケティングはしないし、無理やり探すこともしませんね。
エリス
ただ、そうやって選んだものも、人気が出て世に広まったとたん、本質が見えにくくなることがあるんです。
江藤
それって例えば、民藝じゃなく民藝風のものが増えて、本来の美しさが忘れられてしまう、みたいなことですか?
エリス
ですね。そういう時、僕らはオリジナルアイデンティティに立ち返ります。もとはどういう形だったんだろう、自分たちはどこに惹かれたんだろうって。
北村
だからウチには、東北の古い蓑やこけし、木彫りの熊も並んでる。手に取った人が「えっ?」ってひるむくらい重い陶器を、あえて置いたりもしています。民藝の器は本来重いもの。重いからこそ伝わる美しさや、重さも含めた力が確かにある。
江藤
民藝の伝統的な柄や技術をアレンジしながら復刻させた器も素敵ですね。
北村
ある時、沖縄で昔から使われてきた焼き物の柄を作れる人がいなくなったと聞いたんです。なんとかしたくて自分たちでその柄の絵を描き、益子焼の職人さんに伝えました。新たに生まれたのは、沖縄の柄を取り入れながら、益子の土と釉薬で作られた器。どこかで見たことがあるけど誰も見たことがないという面白いものになったんです。伝統をそのまま伝える復刻だけでなく、形を変えることで受け継がれる復刻があってもいい。そんな橋渡しのような役割を、私たちならではのやり方でできたらと思っています。
江藤
蓑の模様のセーターもそういう復刻なんですか?
北村
もとになったのは、東北でお祝いの時に使われていた蓑。これをスキーセーター風にできないかと思って、シェットランド島最古のニット工房〈Jamieson's Knitwear〉に依頼しました。スキーセーターのデザインなら彼らは作り慣れている。柄さえ理解してもらえれば難しくないだろうと思ったんです。
エリス
みんなが忘れかけてしまっているものに面白みを感じることが、僕らにはよくあるんです。素晴らしいのになぜなくなっちゃったんだろうって。そういうものを“再紹介”していきたい。
江藤
ストーリーを知ると、ものに対する興味や親しみも強まりますよね。
北村
でしょう?私たちはいつも店にいるので。民藝のことでも服のことでも、どんどん聞いてください。
江藤
うーん、際限なく買い物スイッチが入ってしまいそうで怖いです。