Drive

「名車探偵」映画・ドラマに出てくるクルマの話:デロリアン DMC-12

車好きライター、辛島いづみによる名車案内の第7回。前回の「MG−TD」も読む。

Text&Illustration: Izumi Karashima

なかなか別れられない
2人のロードムービー

銀色に輝くスポーツカー。ガルウィングがギギッと開き、中からドクが出てくる。マーティは驚く。「え、デロリアンをタイムマシンに改造しちゃったの?」。ドクは答える。「どうせ造るならカッコいい方がいいだろ」。

1985年。タイムマシンといえば、机の引き出しから乗り込む空飛ぶじゅうたんだった日本の子供たちに大きなインパクトを与えたのがこのクルマ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアン号。映画の印象も相まって、おしゃれでスマートな印象を抱くけれど、ジョン・デロリアンなる男の野望と虚栄心が生んだ名車、もとい、迷車なのである。

ゼネラルモーターズのエンジニアで役員だったデロリアンは、70年代半ば、オイルショックを機に独立。低燃費でステンレス鋼車体の「夢のクルマ」を設計・製造・販売するための自動車会社DMCを設立する。とはいえ、クルマ造りには国家予算並みの資金が必要で、大きな工場に製造ライン、そこで働く数千もの工員がいる。そこでまず、プロトタイプを造って出資を募り、ディーラーから3万台の予約を取り付ける。そして、北アイルランドに工場を造ることでイギリス政府から融資を受けることに成功した。

しかしなぜ、本当にできるのかもわからないクルマにそれだけの注目が集まったのか。ハンサムで、頭脳明晰なデロリアンは社交界でカリスマ的人気を誇った。女たちは彼の緑色の瞳に熱狂し、男たちはデロリアンに乗れば自分も彼のようにモテるんじゃないかという幻想を抱く。「デロリアンで夢を叶えよう」が売り文句だった。

しかし、夢のクルマは、工員の技術不足でガルウィングが開かないなど欠陥が多発。約9,000台製造したもののあまり売れず運転資金がショート。さらに、デロリアンが会社の金を横領したり金遣いが荒かったことも重なり、会社は一気に崩壊。最後は麻薬売買で資金を稼ごうとして逮捕。夢は1年で泡となって消えた。映画でカルト人気が出たのはその3年後。時すでに遅し。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』は、デロリアンが粉々に壊れて映画は終わるが、それはまるで彼の人生を象徴しているようでもある。

デロリアンは2005年、80歳でこの世を去った。