Drive

「名車探偵」映画・ドラマに出てくるクルマの話:MG−TD

車好きライター、辛島いづみによる名車案内。前回のアウトビアンキ・A112 アバルトも読む。

Text&Illustration: Izumi Karashima

なかなか別れられない
2人のロードムービー

MG−TDでフランスへやってきた2人。彼らは結婚して数年のカップルで、夫は駆け出しの建築家。1950年代製の中古のMGはやっと買うことのできた初めてのクルマだ。テントと寝袋持参の貧乏ドライブ旅行の予定だが、フェリーで上陸した途端にエンスト。2人の旅路に暗雲が垂れ込める。

スタンリー・ドーネン監督、オードリー・ヘプバーン主演のラブロマンス『いつも2人で』(1967年)。

いやあ、この状況、よくわかる。わかりすぎる。古いクルマに乗っているとこういったトラブルによく見舞われるもので、ワタシが歴代乗ってきたポンコツ車は壊れるのがデフォルトだった。坂道でシフトが折れたり、オーバーヒートしたり、というのは序の口。

ある夏の夕方には、止めていたクルマに戻ると車内が生け簀になりカエルが泳いでいたという世にも奇妙な物語も経験した(その数時間前の豪雨が原因。パワーウィンドウが誤作動しサンルーフからなにから窓という窓が全開。なぜ開いたのかは謎)。しかし、ほとぼり冷めれば楽しい思い出になるから不思議だ。

イギリス人のジョアンナ(ヘプバーン)とマーク(アルバート・フィニー)は学生時代にフランスで出会った。ジョアンナは合唱団の一員として、建築を学ぶマークはヒッチハイクをしながら好きな建築家の建物を巡る旅をしていた。2人はひょんなことから一緒に旅をすることになり、恋に落ちる。

この映画の面白さは、同じ2人が同じ道を違う時代に違うクルマで何度も通る構成にある。あるときはワーゲンバス、あるときはフォードのステーションワゴン、あるときはMG、あるときはトライアンフのオープンカー。時代が変わるごとに彼らの生活は豊かになり、ジョアンナのファッションも洗練されていく。

結婚12年目。有名建築家となったマークの愛車はメルセデス・ベンツ230SLに。エアフェリー(1960年代まであったクルマと乗客を飛行機で輸送するサービス)で移動するほど出世した。しかし2人はバリバリの倦怠期。行く末やいかに。

原題は『Two for the Road』。「別れの前の最後の一杯」を意味する“one for the road”にひっかけた造語だ。これで最後と言いつつもう一杯。別れられない2人なのだ。