Watch

白TからキャラTまで、映画の中のTシャツ史をスタイリスト・伊賀大介が振り返る

宮藤官九郎監督作品や大根仁監督作品で衣装を手がけてきたスタイリストの伊賀大介は、観る人が「おお!」と唸るようなバンドTシャツやロゴTシャツをスタイリングして、キャラクターの造形に奥行きを与えてきた第一人者。白TからキャラTまで、映画の中のTシャツ史を彼が振り返る。

illustration: Ryota Okamura / text: Yusuke Monma

Tシャツってポスターや缶バッジに近いんです。Tシャツを見れば、その人の趣味や嗜好が一発でわかる。例えばアメリカ大統領選だと、支持する候補者の名前が入った缶バッジをみんな着けてたりしますよね。缶バッジのデザインから大統領選の結果を分析した本があって、読むと缶バッジのカッコいい方が勝ってたり。Tシャツもその人が何を支持しているかがわかります。映画の中のTシャツは、衣装というより、むしろ美術に近いのかもしれません。

ジョックスは無地T、ナードは趣味に走る。

最初に映画でTシャツを意識したのは『アウトサイダー』。エミリオ・エステヴェスがミッキーマウスのTシャツを着ていて、袖口にタバコを入れるのをよく真似しました。

不良といえばTシャツ、しかも無地の白Tっていう時代がありましたよね。歴史を辿れば、マーロン・ブランドとジェームズ・ディーンが2大巨頭。1940〜50年代はまだTシャツが肌着だった時代で、Tシャツで外出するのが反抗的なことだった。『乱暴者(あばれもの)』のブランドが映画における不良の元祖だと思います。

そのイメージがジェームズ・ディーン、デニス・ホッパーを経て、マット・ディロン、ミッキー・ロークに受け継がれていく。60〜70年代は無地のTシャツの印象があまりありません。80年代になって、ディロンとかエステヴェスとか、ブラットパックと呼ばれる俳優たちが出てきて、無地Tの時代が戻ってくる。グランジ以降は減った気がするけど、最近また増えてきましたよね。ジョックスと称される体育会系のエリートが着るのは無地TかカレッジT、ナードは趣味T。『(500)日のサマー』は、ナードな主人公がクラッシュやジョイ・ディヴィジョンのTシャツを着ていました。

青春映画とロゴTの関係。女子のキャラTは痛い?

ロゴTで最初に印象的だったのは、『アニマル・ハウス』とか『ヤング・ゼネレーション』とか。『バッド・チューニング』でチアリーダーたちが着てる、「SENIORS」のTシャツも、超カッコいいんです。

青春映画とロゴTの密接な関係は、その後『ソーシャル・ネットワーク』や『フォックスキャッチャー』まで続きますが、最高峰は「VOTE FOR PEDRO」の『ナポレオン・ダイナマイト』。グレッグ・モットーラが監督した『アドベンチャーランドへようこそ』も、2000年代最高のロゴT映画だと思います。

モットーラは確信犯ですよね。『スーパーバッド 童貞貞ウォーズ』で主人公にブルース・リーのTシャツを着せたり、『宇宙人ポール』で『スター・ウォーズ GピソードⅤ/帝国の逆襲』のTシャツを着せたり、完全にTシャツ監督(笑)。

90年代後半の『ラリー・フリント』『ブギーナイツ』あたりから、スタイリングに古着っぽいTシャツを組み合わせることが多くなりました。だいたい70年代以降、普段着でTシャツを着る人が増えてきたので、当時を描く映画はTシャツをスタイリングするようになったんです。

女の子のTシャツ姿だと、好きな人が多いのは『勝手にしやがれ』のジーン・セバーグ。映画の中のヒロインはたいてい高嶺の花だけど、いや、俺たち側の人間なんだということをTシャツで表現したのが『ゴーストワールド』です。

『ヤング≒アダルト』のキティTシャツは、最近だとかなりいいスタイリングでした。キャラからずっと離れられない感じが痛いですよね。女子の中二病を目の当たりにした瞬間というか。まあ、俺らがずっとバンドTを着てるのと同じだから、人のこと言えないですけど(笑)。