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フレンチシェフ〈エスキス〉のリオネル・ベカさんが食す、 三者三様のインド亜大陸料理

近年、ローカルに細分化が進む東京のインド亜大陸料理。銀座のフレンチレストラン〈エスキス〉で腕を振るうフランス人シェフ、リオネル・ベカさんが、パキスタン、ネパール、南インドと、故郷の料理に情熱を傾ける3つの店へ。カメラを携え、巡って綴る食紀行。

photo: Satoko Imazu / text: Yuko Saito / translation: Kanako Teshigawara

インド、ネパール、パキスタン、バングラデシュ……。東京のインド亜大陸料理店は、ほんの10年ほど前まで、店主の出身地に関わらず、その多くがナン(ナーン)やバターチキンカレーなどの北インド料理を出していた。それが、市場の成熟とともに、急速に細分化。近年は、生まれ育った母国や出身地方の、我が家のローカルな料理を、現地のままに提供する店が増えてきた。

そうしたインド亜大陸の食文化を都内で体験した、リオネル・ベカさん。日本の食文化に触れ、時には生産者や器作家を訪ねたりしながら、東京でフランス料理を創造する銀座〈エスキス〉のエグゼクティブ・シェフだ。

最初に訪れたのは、タンドールと呼ばれる壺窯型オーブンを使った焼き物の名手が腕を振るうパキスタン料理店〈ナワブ〉。続いて、女性店主が野菜を栽培するところから作る、巣鴨のネパール家庭料理店〈プルジャ ダイニング〉へ。自ら味噌やガルム(魚醤)も造るベカさんが、ここではネパールの発酵野菜に出会う。

そして、最後は南インドのタミル・ナドゥ州チェティナード地方出身の名シェフが待つ経堂〈スリ マンガラム〉へ。あっさりとした味わいの、いわゆる南インド料理とはまた違う、力強くも繊細な品々を、現地の作法で味わう。

フランスのコルシカ島で生まれ、マルセイユで育ったベカさんは、父方にチュニジア人、母方にシチリア人の祖母を持つ。「国が違っても、料理を介せば通じ合える」という彼は、この小さな旅でどんなインスピレーションを受けるのか。4年前から真剣に取り組んでいる、自らの写真と文で綴ります。

Nawab 八丁堀店(新川)

パキスタンのタンドールと
煮込み料理を。

ディナーの黒板メニューで紹介される本格的なパキスタン料理が評判。タンドール料理の名手による自家製チーズや白身魚、肉の焼き物は、火入れが見事。汁気の少ない煮込みのような濃厚なパキスタンカレーもおすすめ。インドの
ビールやワインと。

Purja Dining(巣鴨)

野菜作りから手がける
ネパール家庭料理店。

ネパール料理がまだ珍しかった10年以上前から、母に教わったというネパール家庭料理を提供してきた女性店主チャック・プルジャさん。彼女が、群馬・館林で栽培した無農薬野菜で作る発酵野菜の漬物や、それをもとにしたスープはこの上なく滋味深い。

Sri Mangalam(経堂)

名シェフによる
チェティナード料理。

美食の地と呼ばれる南インド・チェティナード地方で生まれ、料理人となったマハリンガムさんがオーナーシェフを務める店。多彩かつ繊細なスパイス使いで故郷の料理を再現する。4月半ばには、祖師ヶ谷大蔵に姉妹店をオープン予定。