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〈鈴木屋酒店〉兵藤昭さんセレクトの
ナチュラルワイン3本セット徹底解説
3本セットの選定は、特集でも掲載された「クロ・ファンティーヌ」をぜひ飲んでもらいたい、とまずは1本目が決定。このワインを軸に考えたとき、ぼくらが感じるものをあと2本選ぶとなると、自然と〈二番通り酒店〉が輸入するフランスワインで3本を揃えるという流れになりました。では、それぞれの特徴を解説していきます。
〈クロ・ファンティーヌ〉フォジェール・トラディション 2017(赤)
ナチュラルワイン特集でも紹介したワイン。太陽の恩恵をいっぱい浴びた南仏ならではの果実の凝縮度、熟度。こう書くと、「薄旨系」好きの方からは敬遠されてしまうかもしれませんが、かつての「フルボディ至上主義」と似た、「薄旨至上主義」に陥らず、口の中だけの濃さ薄さの向こう側にある、飲み心地の軽やかさを感じてほしいです。
飲み疲れさせない、シスト土壌のミネラルが感じられ、また、今最初の飲み頃に達していて、飲み心地の良さがさらにアップ。二番通り酒店の鉄板ワインは、つねにかたわらに置いておきたい、そんなワインです。
[兵藤さんのひと言①]二番通り酒店のこと
二番通り酒店は北海道・銭函で夫婦ふたりで営まれている酒屋兼インポーターです。二番通り酒店のHPにはこう記載されています。
『夫婦二人の小さな酒屋ですが、生産者に直接会って、話して、畑を見て、醸造所を見て、ワインを飲んで、私たちが感動したワインを直接、生産者から買い付けています。商品数は多くありませんが、どのワインも私たちにとって、大切な大切な子供のようなワインです。
私たちの扱っているワインは、保存料が無添加、もしくは少量のみの生きたワインです。生産者のカーヴから、お店の倉庫に到着するまでの間、私たちのできうる限り、すべてのコンディション管理をしています。100%有機、少量生産のブドウからつくられる、体に染みわたるワイン。ぜひお楽しみください。』
ここに書かれていることを真っ正直に、時に愚直に見えてしまうほど一途に行っているふたりですが、そんな彼らが心血を注いで日本に運んできてくれたワインを口にすると、味の好みや、輸入コンディションによる状態というものを超えた「何か」に触れてしまい、こちらの魂がゆさぶられてしまいます。
「二番通りのワインってなんか違うけど、なんでだろね?」と聞くと、「愛ですね」と答えるふたり(笑)。そんな二人の愛の結晶を味わってもらうべく、二番通り酒店セットを組んでみました。
〈サンズ・オブ・ワイン〉ジプシー・バイ・オーダー・オブ・サンズ・オブ・ワイン 2020(白)
今回のワインで使われているブドウはスペイン、マドリッドのもの。樹齢180年にもなる超古木のベルデホという土着品種に出会ってしまったファリッド。どうしてもこのブドウからワインを造りたくなってしまったファリッドは行動にでます。アルザスからマドリッドまで1500kmもの距離を、途中車中泊しながら収穫に向かい、収穫後はわき目もふらずにアルザスに戻り醸造。そのときの生活をなぞらえて「ジプシー」というシリーズになりました。
今回のキュヴェはジプシー・シリーズの中ではオーソドックスな白ワインの醸造方法、プレスした果汁から造られています。柑橘や黄桃、ドライアプリコットのニュアンス、塩気の感じ、昆布だしのような旨味が口いっぱいに広がります。これでもか!というくらいの飲み心地の良さはヴァンナチュールの真骨頂でしょう。
[兵藤さんのひと言②]生産者ファリッド・ヤイミのこと
今、一番会ってみたい生産者のひとり。造り手のファリッド・ヤイミはワイン好きが高じてワイナリーを始めた口。本職は別にありながら、ヴァンナチュールにのめり込み、フランスでのヴァンナチュールの認知に大きな力を注いできた人物。
そのかたわら、自分でもワインを造り始め、2016年にはアルザスの生産者クリスチャン・ビネールの古いカーヴを貸してもらえることになり、ネゴシアン(買いブドウでのワイン造り)として本格的にワイン造りを始めます。
畑を持っていないファリッドですが、長年ナチュールワインに多くの貢献をしてきたファリッドの人望の厚さから、彼を信頼する生産者からブドウを託されワインを造っています。普通、買いブドウから造られるワインは、自分で育てたブドウから造られるワインよりも、個性やテンションで見劣りするケースが多いですが、ファリッドのは別です。生産者と懇意にする中で知識を吸収、持ち前の好奇心からたくさんのワイン造りのアイデアがあり、かつそれを実行するバリタリティ。
ナチュラルワインにはカウンターカルチャー的側面があり、ファリッドのワインのネーミング・センス、ラベル・デザインからもそういったポップさ、ファンキーさが感じ取れますが、小手先だけではない、ワインにじっと向き合いたくなるシリアスさが内包されているところがステキです。また、年を追うごとに、攻めな姿勢は変わらないまま洗練度が増して、新作リリースが待ち遠しくてたまりません。
ちなみに、ファリッドの最新作のワインの名前は『Give Me the Rules』。
〈ドメーヌ・ブランド〉トゥ・テリブルモン・マセラシオン 2020(オレンジ)
こちらは、白ブドウをマセレーションして造られたワイン、いわゆる「オレンジワイン」と呼ばれているものです。今回セレクトしたのは、香り高い品種ゲヴュルツトラミネールを使ったもの。よくライチやバラの香りに例えられるゲヴュルツトラミネールですが、マセレーションを行うことで香りにグッと深みが加わり、果実的な香り良さから、品の良い、大人の香水のような香りに変貌を遂げています。さらにそこに果皮からの旨味、渋みが絶妙に加わり、妖艶さを増しています。これぞ飲む香水!
[兵藤さんのひと言③]マセレーションのこと
マセレーションとは果皮や種ごと発酵させることで、現代の白ワインでは行われてきませんでした。白ワインの醸造方法は、ダイレクトプレス、すなわち果皮や種を取り除いて、果汁のみで発酵させることとされてきました。
しかし、ダイレクトプレスで造られるようになったのは近代になってからのことで、実は歴史が浅く、ワイン造りの原型を遡ると、白ブドウも黒ブドウもマセレーションが行われていたようです。
近代以降、なぜか白ワイン=ダイレクトプレスというパラダイムが定着してしまいましたが、それをぶち破ったのはナチュラルワインの生産者でした。赤ワインでは果汁だけでなく果皮や種ごと発酵させることで、ブドウ一粒を余すことなくワインに変容させているのだから、白ワインでも同様にマセレーションして、ブドウ一粒をワインにまるまる反映させよう、という考えもひとつ。
また、果皮には酵母が付着しているので、マセレーションすることによって、酵母添加をせずともスムーズに発酵できる、という利点もあります。
さらには、果皮にはブドウが外敵から身を守るための天然の殺菌成分、抗酸化成分が含まれているので、それを利用することによって、亜硫酸を添加せずに雑菌の繁殖や酸化をかなり防ぐことができるのです。
さまざまな理由で白ブドウでもマセレーションを行ったワインが造られるようになりました。ひとことでマセレーションすると言っても、その期間の長短や、産地や品種との相性、酸化的な状態でマセレーションを行うか、あるいは還元的な状態で、等々。さまざまなパラメーターが加わり、白ブドウから造られるワインのバリエーションがかなり拡張されました。
古くて新しいマセレーションという技法、まだまだ可能性は広がると思います。