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最も源流に近く、今なお先頭を走り続けるワインの注ぎ手。代々木上原〈ル・キャバレ〉坪田泰弘

長い旅を経て、飲み手の前に届いたワイン。でもその一本はいつ、どう飲む?サービス一つで味は一変する。だからこそ、信じて委ねてみましょう。注ぐ人で味が変わる、はやっぱり本当です。

photo: Sachie Abiko / text: Kei Sasaki

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常にストリートから、
ナチュラルな楽しさを伝え続けて。

最も源流に近く、今なお先頭を走り続ける。坪田泰弘という注ぎ手を一言で表現するなら、そういうことになる。代々木上原〈ル・キャバレ〉に六本木〈祥瑞〉。20年近く、この世界の核となる店に立ち続けている。「尊敬する注ぎ手」を訊かれて真っ先に彼の名を挙げる同業者は多い。

クラブやカフェが職場兼遊び場で、夜な夜な酒と音楽に浸る。90年代のシティボーイを絵に描いたような青年だったが、映画などフランス文化の影響もあり、レコードと洋服代がワインに消えるようになるのに時間はかからなかった。

マルセル・ラピエールという造り手を知ったのが20年前。「自然派ワイン」という言葉も聞き慣れなかった頃だ。オーナーの細越豊子さんと〈ル・キャバレ〉を開くことになり、ワインの勉強を始める。

「とにかく大好きで。絶対にこれを仕事にしたいと思った」

左/ティエリ・ピュズラのクロ・デュ・チュ=ブッフ。右/ロワールの造り手、セバスチャン・デルヴューが手がけるレ・ヴィーニュ・ド・ババス。
左/ティエリ・ピュズラのクロ・デュ・チュ=ブッフ。「ビギナーの頃に心を動かされた造り手で、今もいつどのキュヴェを飲んでも心地よい」。右/ロワールの造り手、セバスチャン・デルヴューが手がけるレ・ヴィーニュ・ド・ババス。「常に畑にいる人、という印象。手塩にかけて育てたブドウのエキスが、そのまま瓶の中にある、という感じ」

当時はまだ、ワインという飲み物自体、レストランやソムリエという“聖域”に属していた。ナチュラルワインの広がりがもたらした最大の果実は、誰もが自由に日常的にワインを楽しめるようになったことだが、それを東京のストリートから切り拓いた一人。

現在、京都で〈ル・キャトーズィエム〉を営むシェフ・茂野眞さんと〈祥瑞〉を切り盛りした4年間の、クラブとフレンチカフェが融合したような夜の熱気は、当時を知る人の語り草だ。

必死に産地を訪ねた若き日を笑いながら振り返るが、「やっぱり店が好き。ここ何年かはパリで店に入り浸っていて」と話す。

「例えば高級店でも“ワイン気に入った?”みたいな顔で親指立てて通りすぎていくメートルがいたり。そんな接客にお客さんも沸いていて、生きた店っていいなと」

慇懃でなくても行き届いていてスマートなサービスは、彼自身のスタイルにほかならない。グラスとボトルを手に席と席の間を滑るように駆け回る。ビギナーも愛好家も生産者もその周りに集い、人の渦ができるのだ。

東京/代々木上原〈Le Cabaret〉坪田泰弘さん

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