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ラランド・ニシダの愛すべき純文学:三木三奈『アイスネルワイゼン』

ラランド・ニシダがおすすめの純文学を紹介していく連載。前回の「西村亨『自分以外全員他人』」を読む

edit & text: Emi Fukushima

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三木三奈『アイスネルワイゼン』

三木三奈『アイスネルワイゼン』
三木三奈著。32歳のピアノ講師・田口琴音は、些細な災難を経て孤独を深める。文藝春秋/1,980円。

ささやかな無理が、いつしか致命傷に

毎回芥川賞の候補作が発表されると、全作品のあらすじを眺めるのが習慣になっていて、本作を知ったのもノミネートがきっかけでした。筋書きは、仕事も恋愛もうまくいかない32歳の女性が〜から始まるもの。

このシンプルな設定がどう転がるかが気になり本格的に読み始めると、それはもう予想以上に不気味な作品でした。作中、主人公はギリギリ耐えられるレベルの“無理”を積み重ねていきます。

例えば、仕事相手に理不尽な仕打ちを受けたり、友人に軽んじられたり、旧友の家で過剰に美しい家族愛を目の当たりにしたり。致命傷にはならない程度の嫌な気持ちがだんだん募り、終いにメンタルを壊してしまう残酷な展開です。

特筆すべきは、物語の多くが登場人物の会話と三人称の語りで進み、心情描写が全くないこと。中盤から主人公は突飛な行動を重ねますが、説明がなく現象だけが描かれるため終始不気味なんです。後半はホラー小説かと疑うほど、得体の知れない不安に襲われました。

作中、主人公が自分を取り繕うためについた嘘に翻弄される場面がありますが、僕も芸人としてエピソードトークを披露する際に“多少は”時系列の前後を入れ替えたり、話を盛ったりすることがあるので共感してしまいました。

つじつまが合わなくなるほどの嘘をついた先には、主人公のような孤独と崩壊が待っている。気をつけます。

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