西村亨『自分以外全員他人』
些細な拍子に、暴力性が顔を出す
精神的に不安定な44歳の男・柳田の物語です。死亡保険が下りる1年半後に自死することを決めた彼は、それまでに自分の中の“何か”が暴発することを恐れながら日々を送ります。でもその秩序が次第に崩れていくんです。
好きなのは終盤、柳田が狭い歩道で猛スピードで向かってくる自転車とすれ違う場面。相手のマナーの悪さに怒りを募らせた彼は突発的に暴力的な行動に出ますが、相手は取り合わず事なきを得ます。そこで柳田がこぼす「助かった」の一言。
“何か文句を言われていたら、殺していたから”だと。冷静に考えれば、中年の柳田が相手の若い男を殺せる確証はない。にもかかわらず自分の強さを疑わない点に、彼の自己認識がいかに肥大化しているかが垣間見えます。
ここを起点に柳田は暴力性を抑え込めなくなっていき、同時にそれまで淡々と流れていた文章にも主観や感情の昂りが混じっていく。次第に熱を帯びるところにグッときます。
最終的に彼は自転車置き場での些細な争いを機に破滅へ向かいますが、僕が突発的に怒りを感じるのは電車の中。
我先に乗り込もうとする人、ロングシートの端や扉の前を死守する人、すべてにイラッとします。でもだからといって、いちいちカッとなることはありません。極めて些細な出来事が破滅への引き金になってしまう柳田は、やっぱり生きづらそうですね。