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ラランド・ニシダの愛すべき純文学:村田沙耶香『コンビニ人間』

ラランド・ニシダがおすすめの純文学を紹介していく連載。前回の「又吉直樹『火花』」を読む

edit & text: Emi Fukushima

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村田沙耶香『コンビニ人間』

『コンビニ人間』
村田沙耶香著。コンビニ店員でいることで初めて“普通”を獲得した女性の物語。文春文庫/660円。

“普通”とはなにか、“特別”とはなにか

主人公は36歳の女性。幼い頃から“普通”でないことに生きづらさを抱えてきた彼女は、コンビニで働くことに唯一の居場所を見つけて以来、18年働いています。しかしある新人バイトの登場で彼女なりの均衡が崩壊。そこから物語は展開します。

この主人公、コンビニから一歩離れると随所で行動の危うさが滲み出るんですが、特に好きなのは妹の家を訪ねるシーン。まだ赤ん坊の甥っ子が泣き始め、妹があやす様子を見て、ケーキを切り分けるのに使ったテーブル上のナイフに目線を向け、“静かにさせるだけでいいならとても簡単なのに”と思い巡らす。何か重要なものが欠落しているのを暗に示す表現にゾッとします。

一方で作中、ある理由でコンビニを一度離れるものの、あとあと“やっぱりコンビニじゃなきゃダメだ”と気づく、ラブストーリーのような展開にもグッときました。

本作の主人公は良くも悪くも非凡なため“普通”を求めますが、極めて凡人の私は、逆に自分が“特別”になれる瞬間を追い求めてきました。振り返れば、中学生の頃に純文学を読み始めたのもその一端なのかも。

休み時間に漫画やアイドルに熱中する同級生を横目に、自分の席で文庫本を開き、「お前らと違って、俺は太宰を読んでいるんだ」と意識し高揚感を抱いていました。もちろんその姿を誰も目に留めなかったことは、言うまでもありません。

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