有島武郎『小さき者へ』
矛盾に満ちた後日談。だけどやっぱり感動する
先日知り合いから、「子供が生まれる友人には、決まってこの本を贈る」という良い話を聞いて、高校生ぶりに読み返したのが本作。著者の有島武郎が、病で母を失った3人の我が子への愛と激励を感動的に綴った文章です。
母を亡くした事実は「恢復(かいふく)の途(みち)なく不幸だ」としながらも、彼らが母にいかに愛されてきたか、そしてこれからいかに生きていくべきかについて、最上級のロマンティシズムをぶちまけて書いている。おそらく思い昂(たかぶ)る夜があったのでしょう。「行け。勇んで。小さき者よ」との終わり方も憎いです。
ただ大人になった今読むと、これは後ろめたさに突き動かされて筆を執っているのではと邪推してしまいます。生前の妻を大切にしなかったことへの後悔と罪悪感を、子供への熱い思いを語ることでチャラにしようとしている気がして。
この文章を世に向けて発表するところにも、子供たちを鼓舞するだけじゃないきなくささを感じてしまいます。そしてさらに水を差すようで心苦しいですが、有島はこの作品を書いた5年後、人妻と不倫し子供たちを残して心中します。5年も経てば人間変わるよなと痛感させられますね。
とはいえ、そんな後日談を加味してもやっぱり感動的。僕が気にかけているのは競馬に読書、そして「ちいかわ」くらいなので、ここで綴られているくらい愛を注ぐ対象が欲しいものです。