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ラランド・ニシダの愛すべき純文学:大江健三郎『奇妙な仕事』

ラランド・ニシダがおすすめの純文学を紹介していく連載。前回の「ラランド・ニシダの愛すべき純文学:フリオ・コルタサル『夜、あおむけにされて』」を読む

edit&text: Emi Fukushima

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大江健三郎『奇妙な仕事』

大江健三郎『奇妙な仕事』
犬の撲殺に携わる大学生たちの顛末。大江健三郎著。『見るまえに跳べ』に収録。新潮文庫/781円。

犬を殺す最中、場違いなジョークに唖然

先日大江健三郎さんが亡くなったとのニュースを見て、高校生以来10年ぶりに読み返したのがデビュー作の「奇妙な仕事」。大学病院で実験用に飼われていた150匹の犬を撲殺するアルバイトに従事する3人の大学生の話です。

最近僕はTwitterで、架空小説の書き出しを創作して投稿しているので、やっぱり気になるのは冒頭の1文目。さぞ興味を引くパンチラインで始まるかと思いきや、“付属病院の〜”から始まる文章にこれでもかというほど修飾語が重ねられていて複雑だし長い。

大江さん特有のカタい文体がすでに表れていて、読者に全く媚びないところにグッときました。そして展開を追っていくと面白いのが、犬の撲殺に対する学生たちの視点の違い。

女学生は殺すことには冷静でもどこかズレてて、私大生は過度にナイーブ、そして主人公は達観していてシニカルです。

中でも主人公が、これから犬を撲殺するというタイミングで周囲に放った“スピッツとセパードが交尾をしている恰好はひどくおかしいよ”という場違いなジョークには絶句しました。共感性羞恥というか……。僕も失言が多いタイプなので目を逸らしたくなりましたね。

ちなみに犬というとやっぱり思い出すのが実家で飼っていた愛犬ラテ。一向に家族との関係が改善しないことから引き続き会えていません。この連載でいつか、再会を報告したいものです。

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