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ラランド・ニシダの愛すべき純文学:三浦哲郎『拳銃』

ラランド・ニシダがおすすめの純文学を紹介していく連載。前回の「田中慎弥『実験』」を読む

edit&text: Emi Fukuhima

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三浦哲郎『拳銃』

三浦哲郎 拳銃

三浦哲郎著の短編。『拳銃と十五の短篇』に収録。講談社文芸文庫/1,078円。電子書籍版で発売中。

気がかりは、ペットの愛情と一丁の拳銃。

しつこいですが、僕は両親と仲が悪く、2年ほど実家に帰っていません。関係修復は半ば諦めていますが、気がかりなのが愛犬ラテの存在。大学を中退して平日の昼間から家でダラダラしていた頃、唯一心を通わせていたのが彼女。実家に足を踏み入れるのが困難な中、寂しがっていないか、どうか自分のことは忘れてくれ……心配で眠れなくなる夜があるんです。

同様に(?)、「拳銃」の中でおふくろは、亡夫の遺した拳銃の存在が気がかりでなりません。誰かの手に渡って犯罪を引き起こしはしないか、火事になって焼け跡から見つかって面倒なことにならないか、その不安を息子に吐露するのが本作の筋書きです。

印象的なのは、父親がなぜ拳銃を持っていたのかを息子が推察する場面。子供の死や病を経験し、壮絶な人生を送っていた父親が、拳銃を、“その気になればいつでも死ねる”とお守りにして生き永らえてきたのではと考えるんですが、生きざまの切なさと、そう思い出す息子の父親への愛情の深さにグッときます。

ちなみに後半に、ある理由でやむを得ず拳銃を外に持ち出すことになった息子がその状況に興奮を覚える描写があります。その場面を読みながら、高校生の頃、コンドームを所持していることを自慢げに触れ回っていた同級生の恍惚の顔がよぎったことを、最後に書き添えておきます。

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