志賀直哉『和解』
1917年発表の志賀直哉の私小説。長年確執があった父との和解を描く。新潮文庫/¥539
親子の形、確執の形は、人それぞれ。
僕は父と仲が悪く、2年以上会っていません。テレビ番組などで悪口を言うと一部の人から怒られるんですが、親子関係って人それぞれ複雑。家父長制が強かった時代に、父親と“ちゃんと”不仲だった志賀直哉の存在が勇気をくれます(笑)。
作中では、劇的な出来事が起こるわけではありません。避け合う親子が淡々と描かれ、ある日和解が訪れる。その唐突さが10代の頃には理解できなかったんですが、25、26歳の頃に読み直してみると、多少の人生経験を積んだからか、周囲の些細な変化を通じて、ぬるっと人は変わるのだなと感じて。リアリティにグッときました。ちなみに僕は、家族と不仲ながらも時々連絡をとってお金を借ります。主人公も、あれだけ嫌う父親から出産費用を援助してもらっていて、妙な親近感を覚えました。
それにしても、小説家は正直なもの。作中にはたびたび、主人公が妻にもひどい態度をとる場面が出てきます。例えば、疲れて帰ってきた彼を心配して妻はあれこれ声をかけるのですが、“こう云う時お前のような奴と一緒にいるのは、独り身の時より余程不愉快だ”とその優しさを一蹴。好感度を考えれば、隠したい悪言をそのまま小説として世に出す姿勢には感服します。まあ、テレビで両親に悪態をつく方がタチが悪いか(苦笑)。いつか僕にも、和解の日が来ればいいなと思いますね。