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ラランド・ニシダの愛すべき純文学:太宰治『畜犬談』

ラランド・ニシダがおすすめの純文学を紹介していく連載。

photo: Takashi Yamamoto / edit,text: Emi Fukuhima

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太宰治『畜犬談』

太宰治_きりぎりす

1939年に発表された太宰治による短編小説。短編集『きりぎりす』に収録。新潮文庫/649円。

心奪われたのは、犬への嫌悪を突如翻すキザな一言

大好きな純文学の中でも、一番読んでいる作家が太宰治。周知の通り、その作品の多くが暗いんですが、異色のユーモアを放つのが短編『畜犬談』です。犬を恐れ、毛嫌いする主人公が、「猛獣」「容赦なく酷刑に処すべき」などと持てる限りの語彙とエピソードを駆使して、その嫌悪を随筆のように綴っています。

凶暴性も嫌いなら、愛嬌を振りまき媚びへつらうところも嫌い、と、ありとあらゆる角度から言葉を尽くす尋常でない執着は、翻ってもはや彼は犬のことが大好きなのではと錯覚するほど。関心の高さという点で、「好き」と「嫌い」は紙一重なもの。

僕自身、AKB48やK-POPアイドルに夢中になる同級生たちを毛嫌いしていた高校時代、嫌う理由を探すため耳にした彼女たちの曲に一瞬で心を奪われてしまった日のことを思い出します。

さらにグッとくるのは、慕ってくる犬をあの手この手で排除することに失敗した時、“芸術家は、もともと弱い者の味方だった筈なんだ”と突如理想論を語り、手のひらを返したように犬への赦しを説く場面。

この作品は、私小説かどうかは明言されませんが、この一言に太宰のどうしようもないロマンティストっぷりとプレイボーイ感が出ていて、たまらなく好きです。僕もこんなキザなセリフがサラッと言えるようになりたい。たとえそれが、女性を振り回す悪い男だったとしても!

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