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作品のようなものづくりを。紙と印刷を考え続ける〈修美社/京都昌幸堂〉

伝統工芸が数多く受け継がれ、今も街のあちこちで、ものづくりも盛んな京都。未来への期待を持たせてくれる新しい作り手と、その作品が買える工房を紹介する。今回は工芸のような印刷と製本を手掛ける、京都・西ノ京の工房へ。
前の記事「履物は着物のためだけのものではない。〈履物関づか〉固定観念をなくすものづくり。」も読む。

photo: Yoshiko Watanabe / edit&text: Mako Yamato

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印刷所に生まれ育った息子が、家業に戻るまで

印刷会社の3代目として生まれた山下昌毅さん。「1960年に祖父が立ち上げた活版印刷所が〈修美社〉。屋号は自分と祖母の名前から1文字ずつ取って付けたそう」と山下さん。「若い頃は家業を継ぐ気はまったくなかったけれど、田中一光の展示をきっかけにグラフィックに興味がわき、ロートレックの石版を見て印刷に興味を持ち始めて……。そしたらうちで印刷やってるやん!と」。

興味を持ったものは、足元にあった。25歳で入社し、印刷、グラフィック、製版と職人だった祖父や父に学び、印刷にまつわるあれこれを身につけていった。技術と同時に2人から受け継いだのは、どんな印刷も断らず、喜ばれる印刷物を作るという気持ちだったという。

転機が訪れたのは2018年。「家業に入る前から、いつか自分でものづくりをしたいとは考えていました。たまたま出会った〈大垣書店〉の大垣守可さんの“本が作れる本屋”という言葉に触発されてタッグを組むことに」。2人は紙の持つ魅力を伝えるべく、2019年に活版の印刷所を併設した書店〈堀川AC Lab〉を立ち上げる。そこに活版印刷機を備え、「写真集を作って、本屋で売るまでの体験」ワークショップなども開催。

刷りあがりを確認する山下さん。ひとくちに印刷といっても刷る以外の工程も数多い。

山下さん自身も本を作ることへの意識は高まり、オーダーで注文を受けることも増えた。デザイナーや装丁家などとともに、ただ印刷するだけではなく、印刷所ならではの紙や技法の提案を加え、オリジナリティの高い本づくりが実現していく。

岩崎達也

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「うららかに」の言葉を大切に、紙と印刷を考え続ける

期間限定のポップアップだった〈堀川AC Lab〉は、2020年に発展的に終了。〈大垣書店〉が手がける〈堀川新文化ビルヂング〉に入ることで新たなスタートを切った山下さん。「ハイエンドな印刷物を作る役割を果たすべく、新たな印刷工房〈京都 昌幸堂〉を立ち上げました。名刺やチラシなど幅広い印刷を手がける〈修美社〉に対して、〈京都 昌幸堂〉は本づくりが中心。ただ作って終わりではなく、書店に併設されていることで販売も可能になります。長く手元に置きたくなるものとして、造本にも力を入れられれば」。

〈京都 昌幸堂〉店内
〈大垣書店 堀川新文化ビルヂング店〉と空間を共有する形で〈京都 昌幸堂〉がある。本の販売もここで。

〈修美社〉のロゴマークをよく見ると「omoshiro print」の文字が見える。つまり「おもしろ印刷」と称し、ユニークな印刷を心がけてきた。漆芸家の本は表紙に手塗りの漆和紙を使い、手仕事で仕上げる折本の仕立て。タイトルを小口と呼ばれる本の断面に印刷したものもある。

〈京都 昌幸堂〉に飾られている本
〈京都 昌幸堂〉には、これまで手がけてきた作品のような本が並ぶ。

そして現在始動中のプロジェクトで、また新たな扉を開くことになる。それが出版だ。取り上げる企画づくりから編集・取材、印刷、製本、そして販売まで。トータルの機能を備えた印刷工房となるべく、準備と制作が進みつつある。「アーティストが作品を自分で作って発表するのをイメージしてもらえれば」と聞いて納得。

第1弾として今秋の発表を目指し、金工の作家を取材中だという。「本を作ることへのチャレンジも含め、いろんな紙を合わせたノートや活版印刷の便箋などのプロダクトも続けていきたい。とはいえ紙と印刷から軸足がぶれることはありません」。

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