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履物は着物のためだけのものではない。〈履物関づか〉の固定観念をなくすものづくり

伝統工芸が数多く受け継がれ、今も街のあちこちで、ものづくりも盛んな京都。未来への期待を持たせてくれる新しい作り手と、その作品が買える工房を紹介する。今回は履物を作る、京都・岩倉の工房へ。
前の記事「“工程の合理性”が美を作る。〈蜂屋うちわ職店〉店主に聞く、京うちわの魅力」も読む。

photo: Yoshiko Watanabe / edit&text: Mako Yamato

ひょんなことで入った履物の世界、広がる未来を感じて独立へ

草履や下駄などの履物は完全に分業で作られている。台を作る職人、鼻緒を仕立てる職人、そして鼻緒を挿(す)げる職人。〈履物関づか〉の店主・関塚真司さんは鼻緒を挿げる職人にして、どんな履物を作るかを考える総合的なデザイナーでもある。履物を着物のためだけのものと考えず、洋服にも合わせる“履くもの”として捉えて作り、提案する。

そんな関塚さんが履物を作ることになったのは、ひょんなことがきっかけだった。もともと靴が好きで靴メーカーで勤務した後に知り合ったのが、後の修業先となる祇園の老舗履物店の店主。「誘われて、営業でもするのかなと来てみたら職人としての修業だった」と、26歳でこの世界へと入ることになった関塚さん。

「これまでにない新しい経験は新鮮で、面白かったですよ。うまくなりそうで、そうでもない。三歩進んで二歩下がるを繰り返すうち、感覚が研ぎ澄まされて、短いスパンでうまくいくように」。一生の仕事と腹を括ったのは、どのタイミングだったのだろう。

「30歳を超えて、独立して自分の仕事をつくると考えたとき、すごいチャンスのある仕事だと感じたんです。世にあまりない仕事だし、名だたるお客様とも対等に肩を並べられる。どう独自性を出すかを5年くらいかけて考えて、プランが見えたところで独立を考えました」

ギャラリー〈岩倉AA〉
ガラスの壁で仕切られたギャラリー〈岩倉AA〉も併設。関塚さんが選び抜いたアパレル、靴、アクセサリー、器、古物などを扱う。

「西洋文化が日本に入ってきた明治時代に遡ると、スーツに草履の人もいれば、着物にブーツの人もいた。その頃のように固定観念をなくして、和にも洋にも提案したいと考えました。そして全部隠さないこと」。確かに仕事場は隅々まで隠すところのない仕様。かくして2020年春に開業した工房へ注目が集まるのに、さほど時間はかからなかった。

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職人技と感性とを融合させた、ここにしかない履物

工房で鼻緒を挿げる関塚さんの手には、迷いがない。鼻緒を叩いてほぐし、台に穴を開けて鼻緒を通し、仕上げる。「穴を開けるのに物差しは一切使いません。台も職人の手で作っているので個体差がある。測ってもズレを感じることもあるし、自分の目の力を信じている。形を見たら、穴を開ける場所が見えてくる」。

草履や下駄などの履物のを作る道具
ひときわ目を引く銀色の道具は特殊な道具。履物の足の指で挟む部分を前つぼといい、その形を整えるために使われる。

言い切るバックボーンには12年を超える経験で培われた自信がある。履物づくりはすべてオーダーメイド。足のサイズを測り、特徴を捉えることから始まる。「とはいえ、サイズはそこまで重要じゃない。草履って歩行を助ける靴のようにフィット感を求めるものではなくて、身体が履物に寄せていくんです。もちろん履きやすいように素材を選んだり作るんだけれど、そもそもが自分の筋力で履いて歩くもの」。

靴とはまったく異なるアプローチを持つ履物。それを現代の洋装に合わせるという提案は、草履が持つミニマルな美があってこそ。「昔から日本の職人さんは手がいいといわれて、素晴らしい技術を持つけれど、海外の製品に比べるとデザインという部分のクリエイションが弱かった。僕が実現しているのは素材の組み合わせ、余白や間の持たせ方で、万人が感じる美を履物の中にすとんと落とし込むこと。そんな意味も含めて目の力があると思っています」。

その感性を養ったものは?と尋ねれば「新潟で育ち、川や山で遊んだ自然の感覚が僕のデザインソース」という。鼻緒と台で構成される履物は極めてシンプル。「鼻緒や台を発注すること、新たに開発されたものも含め素材を集めること、実際に鼻緒を挿げる以外のすべてはデザインだと捉えています」と関塚さん。

鼻緒
これまで履物には使われてこなかった素材も含め、オリジナルの鼻緒も数多く揃える。

ファッションブランドとのコラボレーションや、コレクションで使われることもあるという。「オーダーメイドであるがゆえ、作ったことがないものや見たことのないバランスのものが生まれる、相手がいるところで生まれるものの面白さがある。そこに未来性を感じています」。