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“工程の合理性”が美を作る。〈蜂屋うちわ職店〉店主が語る京うちわの魅力

伝統工芸が数多く受け継がれ、今も街のあちこちで、ものづくりも盛んな京都。未来への期待を持たせてくれる新しい作り手と、その作品が買える工房を紹介する。まずは、京うちわを作る鹿ケ谷の工房へ。

photo: Yoshiko Watanabe / edit&text: Mako Yamato

偶然、目にした京うちわに魅了され、京都へ移住し修業の道へ

細い竹ひごを並べた骨組みの両面に紙を貼り、持ち手を差し込み仕上げる京うちわは、京都の伝統工芸品のひとつ。そのビジュアルに魅了され、京うちわの世界へと足を踏み入れたのが蜂屋佑季さん。2019年の独立時、〈京都扇子団扇商工協同組合〉への開業届は50年ぶりだったというエピソードからも、いかに希少な存在かが伝わってくる。鹿ケ谷の古い長屋に工房を構えて平日は制作を行い、週末は店として営業する。

蜂屋さんの京うちわへの愛情が感じられるディスプレイ。和紙が異なると印象も大きく変わる。

「大学で建築を専攻するうちに、自分の手で完結するものづくりにも興味が湧いてきて。ふと知った京うちわに惹かれ、卒業後は京都での修業を心に決めました。あまり他の人がしないような分野だったのも挑戦しようと決めた理由のひとつです」。真っ先に老舗〈京うちわ 阿以波〉の門を叩くもタイミングが合わずに断念。他店での修業を経て2年後に再チャレンジしたという。その情熱には驚くばかり。

「無知だったからこそできたと、今は思います」と振り返る。「日用品でありながら美術品でもある。京うちわに触れて修業を重ねるうち、その曖昧さというか幅の広さを改めて実感し、ますます魅力を感じるようになりました」

〈蜂屋うちわ職店〉の古い京うちわ
自身の作品に交じってディスプレイされているのは、“天神さん”と呼ばれる骨董市で手に入れた古い京うちわ。
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時代を超えて愛される〈ヘリーハンセン〉のフリースを、〈邦栄堂製麺〉の関康さんが纏う

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すべては美しい京うちわを作る、一点のゴールを目指すため

竹を割ってから裂き、骨を作る。その竹を一本ずつ紙に貼り、骨を挟む形で表紙を貼る。縁を仕上げて柄を取り付けるまで、20ほどの工程を経て完成する京うちわ。伝統的に骨や柄には専門の職人がいて分業が当たり前だったものの、蜂屋さんはすべて自らの手で行う。なんなら、うちわを立てて飾る専用の台まで作るほどだ。

「修業時代にちょうど、骨や柄を作る職人さんが廃業してしまう過渡期の状況だったこともあって。将来、作り手がいなくなっても困らないように、すべての作業を自分でできるようにしようと決めたんです。」

「そこで実感したのは、 工程の合理性が美を作り出しているということ。たとえば美しい骨を作るためには、竹の幅や厚さを均等に削ぐことが大切。均等に削ぐためには、いい竹を選ぶといった具合に、次の工程が美しくなるようにと考えるのが大切ということ。実際、いい竹を使えば歪みを直すなどの余計な手間が不要で、作業も早いんです」。一貫して作るからこその気づきは、作品をより進化させているに違いない。

日用品であり芸術品でもある、京うちわの未来

独立して3年。桂離宮の襖絵と同じ比率に仕立てた市松模様を、自ら染めて仕立てるもの。出身地の山形の名産である紅花の和紙を使ったものなど、代表する作品も登場しつつある。

「修業を始めた頃には思ってもみなかった展開もあります。大切な絵や愛着のある布をうちわにするという依頼もあるし、今夏は国際芸術祭「あいち2022」で現代作家AKI INOMATAさんの蛾の羽をモチーフにした有松絞りの作品を手がけました。作家とのコラボレーションはクリエイティビティを刺激されます」と蜂屋さんは目を輝かせる。

美しさに惹かれて飛び込んだ京うちわの世界だけに、美というものを深く意識しているのだと伝わってくる。「鑑賞するという観点から考えれば、表具のように絵や布を面で飾り、永く保存させる用途という可能性もあるのではと。そうなると次の50年100年と残せる伝統工芸になり、美しさを未来に繋げられるのでは」。