多様な価値観に揺れながら、次なる“スタンダード”を作っていくために
一昔前のアイドルソングでは、プラトニックなものか、人を堕落させる異性愛という印象の色濃かった恋愛。それがここ数年、性的マイノリティの視点を含むあらゆる関係を恋愛として尊重する風潮になりつつあります。しかしコミュニティによって認識に差があるのも現状。
今は、社会全体が恋愛の次なる“スタンダード”を探っている時期と言えるのではないでしょうか。私自身、ラブソングの作詞には悩みながら向き合っています。特に気をつけているのは、明確に友情と恋愛、異性愛と同性愛を書き分けること。
同性愛を「友情のような恋愛」と表現することはその関係を軽く扱っていると感じます。聴き手の解釈は自由ですが、書き手としては曖昧にせず毅然と書くことで、それぞれの恋愛のあり方を尊重できるのではないかと思います。
恋愛を考え直す際の助けになった作品が大前粟生さんのです。恋愛小説は当たり前のように2人の恋仲が始まり、性的マイノリティの場合は説明なしで語られる方が先進的かもしれません。でも世の中の理解はそこまで追いついていないのが現実。
『きみだからさびしい』は「恋愛とは何か」を確認しながら物語が進みます。性欲や嫉妬をはぐらかさず、わからないことをわからないと語り切る。ポリアモリーをはじめ多様なセクシュアリティの人たちが登場する読み応えと語りの細かさに、大前さんの誠実さを受け取りました。
一方で、また違う角度の誠実さを感じるのが『私はあなたの瞳の林檎』。一般的に、可哀想という同情心から付き合う関係もありますが、表題作ではその支配的な構造に対し、疑問とNOを倦(う)みながら振り絞っています。「あなたがあなただから好きなんだよ」という切実な恋心が一冊を通して書き切られています。
『フィールダー』は広義の愛の話。「かわいいと愛」をキーワードに、その境界線はどこか、可愛いと思えるものだけを愛していないか、という問いを多角的に詰問されているような、しかし目を逸らせない物語が繰り広げられます。その問いを考えることで、多様な恋愛の形を自分なりに捉えられるのではないかと思います。