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独自のポップな選書が楽しい高円寺〈蟹ブックス〉。書評家・花田菜々子が本屋を始めた理由

本屋が街から姿を消している。20年前に比べ約半減したとも。でもここ数年、実は、新しく本屋を始める人が増えている。コロナ禍によるライフスタイルの変化なのか、「でもやるんだよ」の精神なのか。2022年に開業した本屋を訪ねてみました。なぜ本屋を始めたんですか?

photo: Kazuharu Igarashi  / text: Izumi Karashima

人生最後に本屋をやるのではなく、今じゃなきゃ後悔するなって

高円寺駅南口からパル商店街を歩いて5分の場所に、一度聞いたら絶対に忘れられない名前の本屋がある。

「店名を決めるとき、カッコつけすぎない名前がいいなと思っていたんです。そんなとき、“蟹”にピンときて。生き物としてかわいいし、横歩きで平和主義な感じもするけど、ハサミを持ってるから攻撃的でもあって。その複雑さがいいなって」

蟹ブックス〉の店主を務めるのは、『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』の著書で知られ、書評家として活躍する花田菜々子さん。20年以上さまざまな書店を渡り歩いてきた“流浪”の書店員としても知られている。ここを開くキッカケとなったのは、店長として働いていた日比谷の書店が2022年2月に閉店してしまったこと。

「どうしようとなったとき、同じ店で働いていた柏崎沙織、當山明日彩とともにシェアオフィス兼本屋ならばできると思ったんです。彼女たちも私同様、別の仕事をしている。柏崎はグラフィックデザイナー、當山は洋服のお直し屋。書店経営の厳しさをよくわかっていますから、本屋専業で暮らしていくのはとても難しい。でも幸い、それぞれ別の仕事があり、私の本の印税もまだ残っていた。本屋をやらない手はないなって」

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』花田菜々子/著
『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』がヒットし開業資金に。

場所を高円寺にしたのは、人も町も活気があることだったそう。
「私はもともと東京の東側の出身。すごく馴染みのある場所でもなかったんです。でも、久々に訪れてみて、こんなに人間が生き生きしてる町がまだあるんだとビックリ。しかも、LGBTフレンドリーな印象もあるし、政治への関心も高くデモにも積極的。居心地のよさを感じたんです」

そして、2022年9月1日にオープン。人文社会系から文芸、ライフスタイル、絵本、サブカルチャー、ZINEまで。花田さん独自のポップな選書が楽しい。もし今思春期の高校生なら毎日入り浸ることは確実だ。

「自分の本屋をやるのは人生の終着駅みたいなものだと思っていたんです。でも、60歳で始めようとしても体力も気力も情熱もなくなっているかもしれない。やれるうちにやらなきゃだめだなと思い、店をやることへの不安や迷いはふっ切れました」

ところで、蟹に関する本は……?
「蟹の本があるとついつい仕入れちゃうんです。ただ『蟹工船』はまだ一冊も売れてません(笑)」

RECOMMENDED BOOKS

me and you『わたしとあなた』、アンソロジー『あなたのことが知りたくて』、香山哲『ベルリンうわの空』、panpanya『蟹に誘われて』、藤岡拓太郎『たぷの里』
よく売れている5冊。右上から時計回りに、me and you『わたしとあなた』、アンソロジー『あなたのことが知りたくて』、香山哲『ベルリンうわの空』、panpanya『蟹に誘われて』、藤岡拓太郎『たぷの里』。

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