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中国地方料理、トレンドの仕掛け人。〈味坊集団〉梁宝璋

中国地方中華ブームを語るなら、神田〈味坊〉とその店主・梁さんの存在は外せない。食べ手を信頼した手加減なしの料理を提供し続ける、東京の中華を変えたキーマンに迫る。

photo: Hisashi Okamoto / text: Haruka Koishihara

故郷と中国各地の
おいしいものを広めたい、の一心で

四川・広東・北京・上海、いわゆる四大中華料理ばかりがチャイニーズにあらず。それを、気負わず「自分が食べてきたおいしいものを知ってもらいたい」という姿勢で伝えてくれるのが、“味坊集団”を率いる梁宝璋さんだ。

1995年に来日し、97年に最初の店をオープン。そこは日本的な“町中華”だったが、2000年に開いた〈味坊〉では、自身のルーツである中国・東北地方の料理を前面に打ち出した。羊やジャガイモ、「酸菜」という発酵白菜を多用するが、日本人の味覚にも馴染み、素朴で食べ飽きない味。

サラリーマンの街・神田には中国駐在経験を持つ会社員も多く、彼の地で食べた味を懐かしがる人が足繁く通うように。そして、料理と並んで〈味坊〉の存在感を高めたのが、料理によく合うナチュラルワインだ。ワインの伝道師として知られた故・勝山晋作さんが「この料理はワインが飲みたくなっちゃうよ!」と置くことを進言。今ではすっかり定着した「中華×ナチュラルワイン」を提唱する先駆けとなった。

文化や歴史を雄弁に伝える
中国の地方料理を探求

さらに、2015年に開いた〈味坊鉄鍋荘〉では、地元でポピュラーな「食卓に埋め込まれた大鍋で煮込む家庭料理」を紹介。食材や調理法に加えて「まだ見ぬ食の様式」を体験できると評判に。続く3軒目の〈羊香味坊〉も自身の食経験に基づく店だが、2018年開店の〈香辣里〉から新しいフェーズに入った。梁さんが中国各地を食べ歩き「日本でまだ知られていない中国のおいしい料理をきちんと伝えたい」と考えたのだ。

ここで打ち出したのが湖南省の料理。「中国一辛い」といわれるが、梁さんは「現地で体験した味をアレンジはしない」という。「変えたら意味がないし、おいしいものは国を超えて通じると思うから」。実際、看板料理に据えた発酵魚は、予想を超えて大人気に。「日本の人は、未知の料理への理解度や順応性が高いと思う」と梁さん。

〈老酒舗〉は「古き良き北京の居酒屋を」、〈宝味八萬〉は「高級店クオリティの広東の点心を気軽に」。中国各地の、未知の食文化を伝えてくれる梁さんは、いわばアンバサダーだ。

「その土地の文化や歴史を知るには、まず食べる」という梁さんが再び旅をし、そこで味わった料理を提供する新たなお店の登場を想像すると、心躍る。

味坊(神田)

梁さんの原点となった店

東京〈味坊〉店内
JR神田駅のガード下に開いた店が梁さんの快進撃のきっかけに。ざっかけない雰囲気の中、東北地方の料理とナチュラルワインの好相性を体験できる。

宝味八萬(代々木八幡)

ベテランの広東人点心師が作る品々は優しい味わい。

羊香味坊(御徒町)

東北地方の羊肉料理
を味わい尽くす

〈味坊〉で羊料理の楽しさを広めた梁さんが、さらにラム肉に特化した店を、と開いたのがこちら。一頭買いした羊を階上のセントラルキッチンで解体し、部位別の串焼き、点心など多彩な調理方法で楽しませてくれる。チチハル風のおから炒め、自家製板春雨の冷菜など小皿の前菜も豊富に取り揃える。ナチュラルワインを冷蔵庫からセルフで選ぶスタイルは〈味坊〉譲り。

東京〈羊香味坊〉店主・梁

味坊鉄鍋荘(湯島)

チチハルでは当たり前の
大鍋を囲んで憩う店

梁さんの故郷では家庭に鉄の大鍋があり、家族で囲むのが日常の光景。ここではその鍋を各テーブルに設え、干したり発酵させたりして風味を深めた野菜と肉や魚を煮込んだ料理がメインディッシュだ。日本各地で出会った素材を使い、中国の家庭の味に仕上げる。

メニューは3,850円と5,500円のコースのみ。内容は前菜+鉄鍋料理+饅頭+水餃子&蒸餃子+デザートで、前菜と鉄鍋料理はそれぞれ数種類から選べる。完全予約制。

東京〈味坊鉄鍋荘〉調理作業

香辣里(三軒茶屋)

湖南料理の辛い+αの
魅力を紐解く

唐辛子に加え、発酵させた食材やハーブ、燻製した食材を組み合わせて多彩な味わいを生み出す中国南部・湖南省の料理を発信。看板メニューは「これぞ発酵中華!」な「香辣魚」。中国では「臭魚」と呼ばれ、塩水に漬けて発酵させた魚を焼いてから、唐辛子と共に煮込んだもの。前菜の焼いたキュウリ×大葉の組み合わせなども未体験の味わいだ。

東京〈香辣里〉調理作業

老酒舗(御徒町)

一日中「歓迎!」
な北京式大衆酒場

1980年代まで主に北京に多く存在したという大衆酒場「老酒房」のスタイルがお手本。ポーションが小さく一人でもあれこれ頼める老北京料理と、多種多様な酒を取り揃えている。紹興酒は、1時間1,100円で飲み放題!という飲ん兵衛歓喜のシステムも。さらには油条&豆漿、肉まん&お粥といった朝食もあり、終日楽しい。

東京〈老酒舗〉調理作業

中国語で言ってみよう

現地の言葉で「ありがとう」:シエシエ

現地の言葉で「おいしい」:ハオチー