Play

Play

遊ぶ

井口可奈のお笑いライブ偏愛日記:第15回 吉住『ティーカップを、2つ』

小説、俳句、短歌などを書く井口可奈が、訪れたお笑いライブを熱く語る連載、第15回。前回の「男性ブランコ『やってみたいことがあるのだけれど』」も読む。

text: Kana Iguchi

連載一覧へ

公演日: 7月14日
公演名: ティーカップを、2つ

吉住『ティーカップを、2つ』

大きなティーカップから花がこぼれるうつくしい舞台の様子に心を惹かれながら、ライブが始まるのを待ちました。

コントはどれも生きにくさを描くことに優れたピン芸人の吉住らしい、こだわりを持った人間たちがそのちいさな個性を爆裂に発揮していくという、登場人物一人一人の描写が優れたものでした。

幕間の映像では、直前のコントの登場人物の語りが音声と同時に字幕で画面に映されます。それもまた一つのコントとして登場人物の多面性を表すような面白さを持っています。ただその語りには意味がある予感がしました。

吉住という一人の芸人が演じる以上、わたしたちが見ることができるのは一人の人間を扱ったコントです。ただ、コントの中の人々には生活があり、吉住が自らコントとして演じるという形では直接的に表れていないけれど、重要な役割を果たすような登場人物の存在を感じさせることもありました。

演技の外側までも想起させていく吉住の世界観はうつくしく、おそろしくて、ライブの最後まで正気でいられますか?と尋ねられているようでした。

思い返せば、最初のコントで、登場人物の女性はティーカップを2つ買っていきました。彼女は一人きりなのに。それがすべての始まりだったのだということに気づかされます。

息を呑むラスト、終演後にぽやぽやした様子で現れる吉住、その落差を見ているとわたしはコントが人に取り憑くのか、人がコントを取り憑かせているのか、わからなくなっていくような気がしてしまいました。

連載一覧へ