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ポロト湖畔に立つとんがり屋根を目当てに、夏の北海道・白老〈界 ポロト〉を訪ねる

BRUTUS No .966号「通いたくなるミュージアム」特集に掲載された〈ウポポイ(民族共生象徴空間)〉と敷地を接して立つ〈界 ポロト〉。星野リゾートが展開する「界」は、洗練された和の空間で、土地の個性や季節を感じさせるもてなしを提供する温泉旅館ブランドだ。全国19カ所を数え「界」ブランドの最北端に位置する宿で、アイヌの文化を知り、味わい、触れ、土地の歴史を体感する。

photo: Satoko Imazu / text: Hikari Torisawa

ポロトは「大きな沼」、白老=シラウオイは「アブの多いところ」、ウポポイは「(大勢で)歌うこと」。「誇りある人間」を意味するアイヌの人々の言葉を舌にのせ、音を愛で、意味するところを思いながら初夏の〈界 ポロト〉を訪れた。

新千歳空港から車で40分ほど。〈ウポポイ(民族共生象徴空間)〉の敷地に沿うように大通りから小路へ進むと宿が姿を現す。回廊からエントランスへ、ロビーラウンジへ、ライブラリーへ、客室へ。白樺の列柱(その数570本以上!)に導かれて歩を進める。

アイヌ伝統の技を取り入れたとんがり屋根が目印

1泊2日の滞在の主役はなんといっても温泉だ。とんがり屋根を備えた「△湯」は、入り口に、湯上がり処の大きな窓や天窓にも三角形のモチーフが連続し、男湯、女湯の内湯には三角に切り取られた光が差して、ポロト湖へ続く露天風呂へと誘う。

この独特の形状はアイヌの狩り小屋から着想を得て、伝統的な建築技法である三脚構造・ケトゥンニにならったもの。設計を手がけた建築家・中村拓志が特にこだわったとんがり湯小屋は、宿の、そして街のシンボルにもなっている。

もう一つの大浴場「○湯」には、ドーム天井と丸い天窓、半円形の浴槽。洞窟の中を思わせる静けさがなんとも心地よい。

△湯、○湯、そして一部の客室に備えられた露天風呂の湯は、アイヌの人々が「薬の沼」と呼ぶモール温泉をひいたもの。天然植物由来の有機成分を含んでとろりと滑らか、黒々とした褐色のアルカリ性の単純温泉は、北海道遺産にも指定されている。

北海道の美を目で、舌で、たっぷり味わう

自然休養林に囲まれ、樽前山に見守られるポロト湖畔に立ち、さらに敷地内にまで湖をひきこんで内外を連続させた〈界 ポロト〉。焚き火を囲むラウンジ、ソファが置かれたライブラリー、庭に張り出す桟橋や半個室に仕切られた食事処、42の客室のすべてから、鳥や虫の声を聞き、湖面の漣と広い空を間近に眺めることができる。

夏の日は暮れるのが遅い。色合いを変え暗さを増していく空を眺めながらの夕食は、北海道の食材の豊かさをあらためて実感する会席料理だ。
近隣の輪果窯で作陶された熊が先付の馬鈴薯海宝盛りを運び、アイヌに伝わる丸木舟をかたどった器で宝楽盛りが供される。イクラ、ウニ、ボタンエビ、鮑、キンキ、牛肉などに続いて、メインは毛蟹と帆立貝と鮭の醍醐鍋。魚介と昆布の出汁に白味噌とトマトをあわせたブイヤベース仕立てで、〆のチーズリゾットにデザートまで土地の美味を食べ尽くす。

2日目の朝食には、アイヌの伝統料理である鮭の具だくさん汁から着想された、鮭とじゃがいものすり流し鍋が登場する。自家製豆腐、かすべの西京漬、イクラやたらこなど、地の食材たっぷりの和食膳で、またもや満腹。

12時のチェックアウトまで、△湯と○湯をはしごするもよし、ライブラリーでアイヌ文化の本を読むもよし、アイヌの人々が魔除けとして身につけたイケマを使ったお守りづくりに参加するもよし。
朝、昼、夜、春、夏、秋、冬、時により気候により季節により、さまざまに表情を変えるこの場所で、自らを自然の一部として生きてきたアイヌ民族の文化に触れ、歴史を思う、かけがえのない体験を。