『BLUE GIANT』石塚真一と黒田卓也が考えた、楽器から入るジャズ講義 〜TRUMPET編〜

「楽器の魅力を知れば、ジャズがもっと身近になるはず」。そう考えた『BLUE GIANT』シリーズ作者・石塚真一が、第一線で活躍する音楽家にインタビュー。楽器の個性やバンド内での役割、聴くべき名盤までを教わりました。ジャズの花形、トランペットについて教えてくれるのは、ブルックリンを拠点に日本と世界を繋ぐスーパートランペッター、黒田卓也。

illustration: Fukiko Tamura / photo: Kazuharu Igarashi / text: Masae Wako

先生:黒田卓也(ジャズトランペット奏者)

トランペットはジャズの花形だ

石塚真一

トランペットを始めたのは何がきっかけだったんですか?

黒田卓也

中学のブラスバンド部ですね。ブラバンと言いつつビッグバンド編成でジャズを演奏する自由な部活でした。その十数人のバンドの中、一人でメロディを司(つかさど)るのがリードトランペット。スポーツの試合におけるエースみたいな大役です。プレッシャーはすごいけれど、高音をバシッと吹き切った時の快感たるや。

石塚

つまり……モテる楽器?

黒田

めちゃくちゃ目立ちますね。高校の時は、カッコよく思われたい気持ちだけを糧に吹いてました。

石塚

僕が思うに楽器はポージングも重要で、トランペットは剣道で言うと上段の構え。絶対カッコいいですよ。逆にこの楽器の難しい点は?

黒田

ほかの楽器だと弦やリードが鳴ってくれるのですが、トランペットは自分で唇を振動させて音を出す。楽器は増幅器みたいなイメージです。最初に音を鳴らせるようになるまでがひと苦労だし、体調から唇の乾き具合まで全部が音に出るので、うまくなる以前にキープが大変です。

有名な話ですが、練習を1日サボると自分が気づく。2日サボるとバンドメンバーが気づく。3日サボるとお客さんにわかる。絶対サボれません。

石塚

黒田さんはヴィンテージの楽器を使いますね。楽器によって音色も変わるものですか?

黒田

変わります。ただ楽器を替えてもその人の音になるともいわれていて、僕の場合は空気をまとったような音を、体が勝手に鳴らすようになっている。よく「音だけで黒田だとわかる」と言ってもらえます。

石塚

そういう音の指向性は、どんなふうに形成されたんでしょう。

黒田

最初に憧れたのはクリフォード・ブラウンの、温かく包んでくれるような音。でも「ああ、こんな音を出したい」と切実に思ったのは、アメリカで聴いたロイ・ハーグローヴの演奏です。芯のある音の周りにファジーな音色が漂っているように感じたんですよね。若い頃は「トランペットの真髄はハイノート(最高音域の音)」みたいな感覚があったのですが、ロイが中音域で吹くバラードに、一瞬で心を持っていかれた。

石塚

僕もロイの演奏を聴いてはらはらと泣いたことがあります。ジャズを聴いて泣いたのはあれが初めて。

黒田

マジで命ぶつけてくるんだって思いますよね。楽器の形状的にも、ベルが真っすぐお客さんの方を向くので、魂に直接訴えかける感覚がある。構造上、音が簡単には出ない分、音に宿るスピリットが強いのかもしれません。ライブ中に「音、外すかも」って一瞬思っても吹き続けるような、破綻ありきで立ち向かうような、エモーショナルなところがトランペットにはありますね。

吹く人の生きざまも表れるパーソナルな楽器

石塚

最近のジャズトランペット・シーンはどんな感じになってるんでしょうか。

黒田

ニューヨークやシカゴでは、ロイやロバート・グラスパーの次の世代が出てきていて、中にはジャズの純粋な芸術性を突き詰めている連中もいます。高い音に頼らず、フレーズを紡いで紡いで現代アートのようなカッコいい音を作っている。

石塚

黒田さん自身はニューヨークで学んだ経験をどう感じていますか。

黒田

音楽に対するアプローチが日本とは違って、誰かの真似は通用しない。お前のスタイルで吹けという世界です。「弱点はほっとけ、強みだけ伸ばせ」とも言われました。ジャズは表現する音楽だから、強いところが良いところだ、と。ジャズのトランペットは人となりも生きざまもすべて表れるパーソナルな楽器。そう教えてもらった気がします。

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