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『BLUE GIANT』石塚真一と挾間美帆が考えた、楽器から入るジャズ講義 〜INTRODUCTION〜

「楽器の魅力を知れば、ジャズがもっと身近になるはず」。そう考えた『BLUE GIANT』シリーズ作者・石塚真一が、第一線で活躍する音楽家にインタビュー。楽器の個性やバンド内での役割、聴くべき名盤までを教わりました。

illustration: Fukiko Tamura / photo: Kazuharu Igarashi / text: Masae Wako

最初の先生は、ビッグバンドやラージ・アンサンブル(多人数編成のジャズバンド)を主戦場とする挾間美帆。楽器と奏者の中心で今のジャズを司(つかさど)る作曲家・編曲家・指揮者です。

先生:挾間美帆(ジャズ作曲家、編曲家、指揮者)

ジャズの楽器はどう決まっていますか?

石塚真一

自身で作った曲をビッグバンドや少人数のコンボで演奏する時、楽器や奏者はどう選ぶんですか。

挾間美帆

大前提として、ジャズは奏者に委ねる部分が大きい音楽ですよね。アドリブという「即興で演奏してもらう場所」がある、つまり作者の手を離れてしまうのがジャズの面白さだと思うんです。だから書いた曲を思い描いた形にしてくれる奏者を選ぶところまでが、作曲家の仕事。選び方も人それぞれです。

石塚

なるほど!ではまずベーシックな楽器編成を教えてください。

挾間

大人数の場合は「ドラム、ベース、ピアノ、ギター」というリズムセクションがあり、その上にいろんな楽器が参加します。一方、ピアノトリオのような小編成なら「ドラムとベース」がリズムセクションで、そこにピアノが乗るイメージです。で、私の場合、リズムの要であるドラムは、ドラ息子に叩いてほしい。

石塚

ドラ息子?(笑)

挾間

頭じゃなく本能で叩く才能を持っていてほしいんです。ドラムには、ジャズの起源はリズムでありブルースであるという本質が、如実に表れるから。そして、好き勝手叩くドラ息子を見守るお父さん役がベース(ウッドベース=コントラバス)。

ダメな時は軌道修正し、足りない部分を補ってくれる保護者です。そこに乗せる楽器は、この2人の関係性にどれだけ寄り添えるか、2人とどう遊べるかという視点で選びます。

石塚

編成の骨格は掴(つか)めました。では挾間さんが中学の音楽教師だとして、生徒に「気軽に始められる楽器は」と聞かれたら何と答えます?

挾間

ピアノとギターですね。示されたところを弾けばちゃんと音が鳴る。最初に音を出す苦労が圧倒的に少ない。その先には高いハードルもありますが、「音楽に触れる導入としては最高だよ」って伝えたい。

石塚

ちなみに、この楽器はこんなキャラ、みたいなイメージはありますか。例えば木管楽器だと……。

挾間

うーん、難しいな。あるある的に言うと、サックスは金管楽器のようにキラキラして華やか、それでいて我が道を行くソリスト的な感じ。フルートは音域が高くてきらびやかで、クラスでモテる人みたいな存在です。音域が広いクラリネットは器用で温かみがあり、オーボエやバスーンは奥深い音を持っていて、長く付き合って掘り下げたいパートナー、かな。

石塚

面白いですね、金管楽器は?

挾間

いちばんの花形は、圧倒的に音域が高くて音色も華々しいトランペット。実際の奏者も自然に人を惹きつけるキャラの人が多い印象です。

石塚

トロンボーンやチューバは?

挾間

トロンボーンは音程の取り方からフレージングまでほかの楽器と全く違う。表には出さないけど実はキャラが確立している隠れディーバ的な楽器ですね。対して縁の下の力持ちはチューバ。この二者の魅力は、シャチの群れのような迫力とインパクトを出せる点です。クライマックスへ向かう筋道を作り、一気にガッと盛り上げるドラマメーカーなんです。

そしてジャズでは少数派ですが包容力があるのはホルン。管楽器と弦楽器など多彩な音がうまく混ざり合うための、橋渡しとなる楽器です。

石塚

ストリングス(弦楽器)は?

挾間

ベースやチェロは木を体で抱え込むように演奏するので、木と共鳴する音の美しさを感じるし、バイオリンには人がおしゃべりしているような語り口があります。あとはハープ。曲の色彩感を豊かにする楽器です。例えば映画を撮る時、最後に色彩補正をして作品の世界観を作るのですが、それに近い役割ですね。

なぜビッグバンドとコンボで楽器の選び方が変わるのか

石塚

打楽器についてはどうですか。最初に「ドラムには本能的な才能が必要」とおっしゃっていましたが。

挾間

音楽には理論で説明できない魅力があると思うんです。うまくグルーヴする叩き方を論文に書けたとしても、論文通りに演奏したところでいい音楽にはなり得ない。むしろ、理解はできないけど体が反応して叩いちゃう的な何かが打楽器には必要。

石塚

むき出しの魅力、みたいな?

挾間

そうです、そうです。ドラムはもちろん、リズムセクションであるジャズピアノも、むき出しの打楽器的な才能がないとカッコよく聞こえない。鍵盤打楽器のビブラフォンにも同じ感覚が必要かもしれません。

石塚

ところで、そういった楽器の役割は、小編成のコンボの時と大編成の時とで変わるんですか?

挾間

奏者に求められるものが全く違います。例えばトランペット、サックス、ドラム、ベース、ピアノのクインテット(5人編成)の場合、大事なのは5人の調和。でも5人というのは、個々がソロイスティックでも許される人数なんですね。誰か1人が「今、こう奏でたい」というエゴを発動しても、ほかの4人が瞬時に反応できる。

これが18人の大編成になると、1人のエゴを17人が正確に受け取るのは難しい。それより、自分の音が18人の音の中にどうブレンドされるべきかを瞬間瞬間で理解し、担う力が重要になるんです。この奏者は集団の中で力を発揮できる人なのか、ソリストとして優れているのか、即興が前提のジャズにおいて、集団によりよい力をもたらす立ち位置はどこなのか。それを見極めるのも私の仕事なんです。

石塚

ジャズの魅力は音に即興性があり刹那であることだ、と僕は思うのですが、そのことが楽器や奏者の選ばれ方にも関係しているんですね。

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