先生:井上銘(ギタリスト)
ジャズに新風を吹き込んだギター
石塚真一
ギターに興味を持ったきっかけは何ですか?
井上銘
中学の頃、親父がビートルズやエリック・クラプトンを教えてくれたんです。中でもレッド・ツェッペリンに惹かれてライブDVDを観たら、ドラムのジョン・ボーナムはタンクトップで超マッチョ。片やギターのジミー・ペイジは色白でガリガリ。俺はこっちだな、と。ギターソロもカッコよかったし。
石塚
はい、ビジュアルは大切です。
井上
その後、親父と行ったブルーノートで観たマイク・スターンのギターが衝撃的で。当時ギターソロに飢えていた中3ギター少年の心に深く突き刺さり、そこからジャズの歴史を掘り始めました。
石塚
ジャズセッションだと、ギターはどんな役割を担うのでしょう。
井上
日によって変わります。ピアノ、ベース、ドラムとの4人なら、ギターはメロディを奏でる役。でもサックス、ギター、ベース、ドラムとなるとギターはリズムセクション。ボーカリストとのデュオならサウンドスケープを演出する役に徹します。サッカーでいうとフォワードもディフェンスもできる感じです。
石塚
そういう関係性の中で井上さんが目指すものは何ですか?
井上
自分の個性はもちろん大切ですが、「自分と演奏した人が、よりカッコよくなっている」というのが理想。世界のジャズシーン的にも、個人よりバンドサウンドを尊重する空気を感じるんです。
ジャズのセッションで大切なのって、お笑いに譬(たと)えるとツッコミのタイミングやボケのセンス。メンバーや立ち位置が変わっても、その時々でいちばんいいツッコミを繰り出せるよう、美学を研ぎ澄ましている人が増えているんじゃないでしょうか。
石塚
なるほど。セッションで気をつけていることはありますか?
井上
自分を追い込んだり技術にのめりこみすぎたりして、目の前の「人」を見なくなることです。やっぱり目の前の人と瞬間を大事にするのが、ジャズの面白さだと思うので。
ほかの楽器を研究することで新しいサウンドが生まれる
石塚
ジャズギターのどんな点が一番好きだったりしますか?
井上
エレキギターが生まれたのが1930年代。それをジャズに持ち込んだのがチャーリー・クリスチャン。50〜60年代にジャズギターを広めた立役者がウェス・モンゴメリーで、さらに60年代後半から70年代にかけてロックとジャズが融合し始める。
ジャズにギターを取り込むことで、ロック的なカッコよさを表現したんですね。僕はその時代のギターが好き。パッケージング化される前の荒々しい美しさがあるから……。
石塚
やっぱギターはモテそう……。
井上
たぶんモテます、10代までは。でも大人になったらベースとドラムがモテるって、先輩に教わりました。
石塚
そうなの⁉じゃあ最近のギターシーンで気になることは?
井上
例えばジャズのスタンダード曲でピアノや管楽器が担ってきた、ギターでは弾けなそうなことに挑戦する……みたいなことが再び注目されている気がします。定番以外の楽器を取り入れることもそうですが、ピアノが奏でていた響きがギターだとこんな音になる!という発見が、新しいサウンドを生むんですね。
石塚
定番以外の楽器というと?
井上
僕はハープやビブラフォンが好き。あの音と一緒に演奏することで、今までと違う部分が引き出されたら楽しいだろうなって思います。
ウェス・モンゴメリーをめぐる名盤