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『BLUE GIANT』石塚真一と林正樹が考えた、楽器から入るジャズ講義 〜PIANO編〜

「楽器の魅力を知れば、ジャズがもっと身近になるはず」。そう考えた『BLUE GIANT』シリーズ作者・石塚真一が、第一線で活躍する音楽家にインタビュー。楽器の個性やバンド内での役割、聴くべき名盤までを教わりました。ピアノは多くの人にとって身近な楽器の一つ。ではジャズピアノの楽しさは?ジャンルレスに活躍するピアニストの林正樹に聞いてみた。

illustration: Fukiko Tamura / photo: Kazuharu Igarashi / text: Masae Wako

先生:林正樹(ジャズピアニスト、作曲家)

音で会話するジャズピアノ

石塚真一

始めたのはいつですか?

林正樹

幼稚園の時ですが、全然楽しくなくて小学2年でやめました。

石塚

えっ、早っ!

でも小5の時、大好きなドラクエの音楽を弾いてみたら「なにこれ!」って、めちゃめちゃ嬉しくて。中学でもJ-POPの曲を弾くとみんなが喜んでくれた。昔から人前に出るのが苦手だったのですが、楽器があれば緊張しないし自分のことも外に出せるって気づいたんです。

石塚

ジャズを始めたきっかけは?

高校1年の時、ビル・エヴァンスの「いつか王子様が」を聴いて、再び「なにこれ!」。知ってる旋律がこんなふうに変化するんだと驚き、自分でもやってみたいと思いました。

石塚

そこはジャズの魅力ですよね。ではピアノの魅力はどんな点ですか。

繊細なハーモニーを鳴らすこともできるし、ツカッカッカッとリズミカルに音を刻むこともできる。音域も7オクターブ以上と広く、一人でメロディと伴奏ができる。ただ、トランペットやサックスが単音でメロディを歌った時の説得力にはかなわない。どうしようもなく憧れます。ピアノであの説得力は難しいんです。

ソロ演奏とバンドの時で、ピアノの奏法はどう変わる?

石塚

ジャズピアノを演奏する時は何を大切にしているんでしょう。

音色です。その時の楽器が持つ一番美しい音を出すことを意識しています。ジャズの場合、ホールからクラブまで、その日その場にある楽器を使うことがほとんど。自分の楽器を持って演奏場所に行く管楽器とも、恵まれた環境で弾くことの多いクラシックピアノとも違うんです。

石塚

具体的にはどうするんですか。

その場の音の響きを感じながら、その楽器に合うタッチを考えます。これは持論ですが、いきなりフォルテの音で弾いてしまうと、楽器が持っているはずのダイナミックレンジ(最も大きな音と最も小さな音の間の幅)をちゃんと引き出せない気がして。強弱やタッチ、指の速度にも幅を持たせるよう心がけています。

石塚

指の速度ですか?

音の強弱だけでなく、楽器の音を出す速度によっても音色が変わります。僕の好みは「優しく速く」。鍵盤を速く押すと強い音になってしまうのを、指先や体重の掛け方でコントロールしている感じです。

石塚

ところで林さんはジャンルレスなバンドで演奏していますよね。

バンドの場合、難しいのは楽器それぞれの音量の幅が違うこと。僕はピアニッシモな小さな音でも弾きたい。でもサックスやトランペットにとって、それをかき消さないほど小さな音を出すのって心地よくはないと思うんです。だから、常に全員が全員の音を確認しながら演奏できるようでありたい。互いの音を聴いて「音で会話」できるのが理想です。

石塚

ピアノはいろんな音と手を繋げるんだな。ちなみに飽きませんか。

生楽器を弾き続けている限り、飽きないですよ。アコースティックピアノは、鍵盤を押すとハンマーが弦を叩き、その振動が響板を伝わって空気を震わせ、鼓膜に届いて音になる。そこにはまだ自分が引き出せてない未知の音色があると思うから。

石塚

では、ピアノに壁を感じている人がいたら何と声をかけますか?

好きな曲を演奏したらいいんじゃない?って。ジャズピアノは、クラシックを学ばなくても楽しめるし、必ず楽譜が必要なわけでもない。ジャズは自分の気持ちと連動する音の表現。好きになることが一番です。

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