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後藤正文×のんが語り合う「表現活動」と「生き方」のあした

J-WAVEで毎週日曜日23:00から放送中の『TOPPAN INNOVATION WORLD ERA』は、真鍋大度、後藤正文、のん、小橋賢児という4人のクリエイターが毎月週替わりでナビゲートする番組。これまで交わることがなかった彼らが2組に分かれて互いに行ったインタビューには、いくつもの「あしたの種」が詰まっていた。真鍋大度×小橋賢児の対談も読む。

Photo: Shinya Sato / Text: Hiroya Ishikawa / Edit: Emi Fukushima

「表現活動」のあした

(後藤正文からのんへ)
演技はもちろん、音楽活動にも力を入れるのん。俳優とミュージシャンは人前に立つという意味では同じだが、表現する際の心構えには大きな違いがあるという。のんが後藤に明かしたのは、演技という表現の奥深さだった。

後藤正文

はじめましてですよね?

のん

はじめましてですね。

後藤

僕は以前、一方的にドラマを観てましたけど。

のん

ありがとうございます。

後藤

のんさんは、音楽活動も活発にされてますよね?

のん

しています。

後藤

やってみようと思ったのはいつ頃から?
例えば、俳優になる前から音楽をやりたかったんですか?

のん

ええっと……、順番的には演技をやりたいなと思う前に友達とコピーバンドを組んでやっていました。

後藤

じゃあ、今、音楽ができているのは幸せなことなんですね。

のん

その時の熱が消えてなくて、「のん」になった時にやりたい気持ちがまた燃えてきた感じです。

自分と役がつながっているか、響き合っているかが大切。

後藤

僕には全然見当もつかないことですけど、演技に関してはどういう向き合い方なんですか? その役になるってどんな感じ?

のん

私の場合は役に入るとか、役に飛び込むっていうよりは、自分とその役がつながっている、響き合っているかどうかをすごく大切にしているかもしれません。

脚本を読んで、ここだったらなんとなく自分との共通項になるかもしれないなってところを見つけて、そこから自分の中にある近い体験を探して広げていったり。

どういう解釈をするかによって、役者さんの個性が出ると思うので、そこに自分が演じる意味を出せるように気をつけています。

後藤

演技している人たちの想像力にも驚きます。台本の順番に撮っていくわけじゃないし、一つのシーンをいろいろな角度から撮ったり、撮り直したりしながら、それがどうつながっていくのか、撮影している時は、演じている側にはわからないですよね。
それに対する辻褄の合わせ方もすごいなって思うんです。

のん

そうですよね。先輩方を見ていると、自分の役としての存在の仕方を把握されているからこそ、どういう画になるのか見えているんだなって思います。私もそうなれるように努力したいです。

後藤

もう一つ質問していいですか?
音楽でステージに立って楽曲を演奏する時って、例えば、ある役柄に寄せている時の自分と、一人の「のん」という人間のどちらに近いですか?

たぶんミュージシャンの中でも、アーティストとしての自分に変身してステージに出ていく人と、自然にフラッと出ていく人がいると思うんですが、のんさんの場合は?

のん

私は自分と近い感じでやっている気がします。

後藤

そうなんですね。のんさんがこのあとどんなミュージシャンになるのかは僕には想像がつかないことですけど、エンタメとして演じることも好きだし、等身大の自分も好きってことは、どっちに行っても大丈夫そうだから、今後が楽しみです。

のん

そうですね。頑張ります!

「生き方・暮らし方」のあした。

(のんから後藤正文へ)
音楽だけではなく環境問題について声を発するなど、活動の領域を広げている後藤。そのきっかけや原動力はなんなのか?それを踏まえたうえで、これからの時代の生き方や暮らし方について、後藤がのんにアツく語った。

のん

ご本人にお伝えするのはお恥ずかしいんですけど、私、『閃光ライオット』というフェスの開会式でアジカンの「リライト」を一節だけギターで弾いたことがあるんです。

後藤

ありがとうございます。

のん

超カッコいいから勝手に弾いてしまいました。そんなこともあって私は緊張していますが、頑張っていろいろ聞いていきたいと思います。

後藤

よろしくお願いします。

のん

後藤さんはバンド以外にもソロ活動やコラムの執筆、『THE FUTURE TIMES』という新聞の編集長をやられるなど多岐にわたる活動を展開されていますが、活動を広げられたきっかけはなんだったんですか?

後藤

東日本大震災です。自分にとってすごく大きな経験で。なんかね、生き直そうと思いました。あの時に僕は運良く生き残ったと思ったんです。

そのあと知り合った人たちの中には、いろんな喪失を抱えている人たちがいらっしゃったりして。そういうことも考えると、自分の命を粗末にはできないなって。それはどういうことかといえば、誰かのために生きるってことだと思ったんです。

のん

なるほど。

後藤

自分の能力を自分のためじゃなくて、人のために使おうって思って『THE FUTURE TIMES』紙の編集長をやったりとか。そういうふうに広がっていった感じがありますかね。

あとはね、よりナチュラルにいたいと思いました。以前、アーティストとしての自分の役割や、周囲の期待とかに押しつぶされそうになった時期があって、それを続けていたら、ホントに死ぬしかなくなっちゃうっていうか、自分が好きだったロックスターみたいに呪われて破滅するしかなくなっちゃうと思って。

そういう生き方がしたいんじゃないって。変にカッコつけないとかもやだなと思ったし。カッコつけないことってカッコつけてるんですよ。

のん

カッコつけない自然体を表現しちゃってるみたいな?

後藤

そうですね。だから、人にどう見られているとかじゃなくて、自分がどんな服を着たいか、どんなことをしたいか、何を食べて、誰と会って、どんな音楽をしたいかってことに正直に生きるっていうか。ナチュラルにいようと思いましたね。

のん

素敵ですね。『THE FUTURE TIMES』などでは地球の環境、再利用のエネルギーなどの話題も特集されていますよね?

のん

うんうん、使いますねー。

後藤

そうですね。恥ずかしいかどうかってことが自分にとっての大事な尺度で。

例えば、自分に孫ができたとして、おじいちゃん、あの時なにしてたの?って聞かれて説明できないような人生を送りたくないなっていう気持ちもあって、なるべく社会にちゃんと関わりたいし、間違ってもいいから考えていたい。

エネルギー問題にしても、やっぱりいろんな人が自分事にしていかなきゃいけないと思ったんですよね。音楽って電気を使うじゃないですか?

後藤

東京の人たちが無自覚に使っている電気って、首都圏だけじゃなくて新潟だったり福島だったり、いろんな場所から送られてきているものだったりするわけで。

そういうことを考えていくと、エネルギーってなんだろう?無自覚に使っているけど、それによっていろんな人の人生を変えている。似たようなものってほかにもいっぱいあるなって思ったんです。

例えば、ゴミ焼却処理施設や火葬場など、自分の家の裏庭にあったらちょっとイヤだなって思うもの、ノット・イン・マイバックヤードっていうんですが、そういったものを自分ではない誰かや、どこかの地域が引き受けていたりする。

それは原発もそうだし、米軍基地もそう。だから僕にとってはただエネルギーについて考えるだけではなくて、もっとなんていうんだろう、自分がいかに当事者として考えてこなかったかを反省している感じですかね。

のん

そうなんですね。

後藤

現地に行ってみることがすごく大事だと思っていて、震災前は、例えば、青森県にある六ヶ所村に行ってみたり。青森市までも遠いけど、そこからさらに遠いんですよ。

あとは沖縄県の辺野古に行ってみようとか。現地をレンタカーで回ってみると、あれ、ここ地図上で全部グレーになっているけど、なんだろう?みたいな。日本ではない土地があって、その広さに気づいたり。

ネットで調べているだけだとわからないけど、実際に行ってみるとこんなに遠くの人たちに代わりにやってもらっていることに気づくんです。

のん

目の当たりにすると自分事になっていきますよね。

後藤

こういうことを言うと、めんどくさい、あの人って思われますけど、でも、自分の体でちゃんと感じて考えることってけっこう大事なことだと思います。

後藤正文×のん