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石田明×橋本直 M-1王者対談#3「お笑いファンだったときの自分」を忘れない

M-1グランプリの王者で、自他ともに認める強い漫才愛の持ち主である〈NON STYLE〉石田 明さんと〈銀シャリ〉橋本 直さん。そんなふたりが同時期に著作(『答え合わせ』 『細かいところが気になりすぎて』)を刊行したことを記念し、豪華対談が実現!昨年末のM-1から、ネタの作り方、迫りくる「中年の危機」まで、多種多様なテーマを全4回にわたって語ります。第3回はお笑いを続けていくうえで大切にしている心構えについて。

photo: Keiko Nakajima / text: Yumiko Fukushima

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年取るごとに「気になること」は増えていく

橋本 直

『答え合わせ』を読んでると、たまになんか熱を帯びてきて「俺は才能がない」なんて言ってるところがありますよね。

石田 明

そこが俺の一番がんばれたポイントだから。

橋本

ちゃんと考えて構築してきた人ですもんね。だからここまで言語化できた。

石田

やっぱり憧れてるんすよ。橋本みたいな天然ものには、やっぱり勝てないよね。

橋本

いや、僕も研究家寄りですよ。だからもう、この本にはめちゃくちゃ感激して。

銀シャリ・橋本直
銀シャリ・橋本 直

石田

でも実際、どうなの。引っかかることは年々多くなってる?

橋本

多くなってる感じですね。

石田

偏屈じじいってそういうことだよね。年老いるほうがエッジきいてくんねや。

橋本

中川家さんって、めっちゃ優しいじゃないですか。だからもうムカつくことはないんかなって思ってたんですけど、前にテレビの収録現場でご一緒したら、もうずっと、ご兄弟ふたりでぶつぶつ、ぶつぶつ、言うてる(笑)。だから人は丸くなるんだけど、ぶつぶつ言う心の部分はなくならないんやと思って。

石田

そうやな。

橋本

年取ってからのほうが、いろいろ気になることが増えてくんですよね。昔やったら「ま、そういうもんか」「うん、しょうがないな」と思っていたのが、「ほんまにそういうもんか?」「ほんまにしょうがないんか?」ってなってくる。経験値が増えると「気になること」も増えるんやって思ってます。

「お笑いオタクの中3の俺」に監視されている

橋本

本にもちょっと書かれてますけど、石田さんは、よく「お笑いが大好きだった、お笑いオタクだったころの自分を忘れてはならない」っておっしゃってるじゃないですか。今年の正月のお笑い番組を見てても、ノンスタはあちこち出てるんだけど、ネタを全部変えてる。それで、ちょいちょいスベってるっていうのが、また人間っぽいんですけど(笑)。

でも、そこはやっぱり、ノンスタイルが大好きで番組もいっぱい追いかけてる人たちを、寂しがらせないようにっていう意識があるんですかね。少年の自分が見てたとしたら、「あ、これ前に見たんと同じや」って思われるのは嫌やな、みたいな。

石田

そう、ずっと「中3の俺」が監視してんねん。

NON STYLE・石田明
NON STYLE・石田 明

橋本

それ忘れてない人ってすごいですよね。でも、新ネタをやるのってめっちゃパワーがいるじゃないですか。それで受けんかったら、もう我が子がボコボコにされたくらいのダメージで、「ほんまはこいつ、こんなにスベるやつやないねん。もうちょっと大事なとこで出してあげればよかった」って思う。

石田

それとさ、テレビで新しいネタをやるために、寄席を見に来てる人たちの前で、まだ不安定な新ネタをしてしまう自分も、「おい、それでいいんか?」とも思う。

橋本

めっちゃわかります。テレビでやる新ネタのために、誰かが犠牲に。これは難しいですよね。

石田

だいたいテレビってネタ時間は4分くらいやんか。だから、テレビで新しいネタをするために、寄席の10分の持ち時間を前半と後半に分けて短いネタを2本やるとか、「おまえら、この芸歴で、そんな若手みたいなことすんのか」って中3の俺が言う。

橋本

まだ中3の自分がいるんですね。前に大きな会館の営業で少し勇気出して、新ネタをやってみたことがあるんですよ。けっこうバーッて受けて。そしたら、ちょうど年末だったから、次の出番だったテンダラーさんが舞台ソデで「これ、『THE MANZAI』でやるやつ?めっちゃええな」って(笑)。そういう恥ずかしさもありますよ。

「漫才」は大好きな仕事で、趣味で、一番の表現ツール

橋本

たまにネタづくりのモチベーションについて聞かれることがあるんですけど、僕はもう、大好きな仕事であり、趣味であり、一番の表現ツールなのが漫才なんで。

石田

俺もそう。ここ毎年やってるのが、「今のノンスタで出るなら、M-1やったらこの2本、THE SECONDやったらこのネタ」って頭の中で参加してる。

橋本

僕もそうですね。

石田

それで自分の中では優勝している年もある(笑)。

橋本

はい、それが漫才師の健全な賞レースへの関与の仕方と思います(笑)。毎年、単独ライブに向けてキレキレのネタを作ってる感覚と近いかもしれないですね。寄席には寄席の漫才があって、キレキレのネタを寄席っぽく調整することはあっても、寄席ネタからM-1とかのネタをつくるのは難しい。

石田

銀シャリももちろん研究してる。最近の銀シャリってどこの劇場でも、一番受けてる。劇場ならではのライブ感がめちゃくちゃ受けてて、「これは羨ましいな」と思って、今回、生でやるためのネタを作りました。

橋本

ぜんぶ研究の材料にされてる(笑)。ほんますごいですね。

石田

俺たちはもう大会に出ることはないから、反則なんかないわけですよ。

橋本

今日はポップなネタをやろうとか、あとは好きな後輩に呼ばれたからちょっとがんばろうとか。

石田

あるある(笑)。俺らはいつも井上がネタを選ぶんですよ。「はい、どうもー」って出て行って井上がしゃべり始めてはじめて、「今日はこれやるんや」ってなる。だけど、後輩に呼ばれたときだけは俺が「今日はこれやろう」って言う。

橋本

後輩に呼ばれて、あんまりほかで見せたことないようなネタをやるのは、その後輩をリスペクトしてる証拠ですよね。

石田

そう、だからこの間、ももとからし蓮根に呼ばれたイベントでは、攻めたネタをやりました。

橋本

この間、囲碁将棋のファンクラブと僕らのファンクラブの合同イベントがあって、「ここからここは囲碁将棋のファン、ここからここは銀シャリのファンです」って感じで客席が真っ二つに分かれてたんですよ。

僕らの出番のほうが後だったんですけど、囲碁将棋がめっちゃおもろかった。彼らを見て受けてる空間もめっちゃ素敵やな、と思って。そしたら、囲碁将棋のファンの人たちにも喜んでもらいたくなってきたというか、ちゃんとおもろいと思われたいっていうのが出てきて、鰻と「あんまりやったことないネタやろう」ってなりましたね。単独ライブでしかやったことないネタにしたら、囲碁将棋のファンの人たちもめちゃくちゃ笑ってくれて。

石田

わかるなー!

自分自身が銀シャリの一番のファンでいたい

橋本

NGK(なんばグランド花月)なんて総本山で、ご年配のお客さんもたくさんおられますけど、最近、僕らはトリもやらせてもらえるんですよ。絶対に受けないといけないじゃないですか。トリでスベるわけにいかない。そうなると、単独ライブ用のキレキレのネタ2本なんか絶対にできない。

でも囲碁将棋とのイベントみたいに「いつもやらないネタ、やろう」っていうことになるときもあるから、やっぱりネタの種類は作っておいたほうがいいかなと思いますね。

石田

たしかに単独ライブネタは、ほかでできるところはほんまにないもんな。

橋本

自分は好きやけど、お客さんにはわからんってなったら、いったんやめるじゃないですか。もし変なネタやったら、どうしたらおもろくなるかを考えますよね。でもやっぱり、自分がめっちゃ好きで、あんまり丸くしたくないなっていうネタもあるんです。それが一番難しくて、「これ、どこで出したらいいんや」となる。そいつを一番いい状態でやりたいから、「あ、今日のお客さんやったら、あんまり丸くせんでも行けるかも」みたいなことを考えるんですよね。僕、ほんまに佐々木朗希くらい大事に育ててるネタがありますよ。登板数は少ないけど、いつかメジャーにっていう(笑)。

だから自分でちょっとロックやなと思うこともある。いや、ロックというかヤンキーというか……、ビビリヤンキーやと思う。ビビりつつも、もし後輩に呼ばれたら、いつでもやってやるっていう。大人げないかもしれないけど、みんなすごいから自分も現役として食らいついて、絶対王者くらいの感覚でいないとっていうのは常にありますね。

石田

後輩からも憧れてもらえるように、がんばり続けなあかんし。

橋本

そうなんですよね。僕は、僕自身が最後の一人まで残るファンだと思っていて、他の人が銀シャリから離れていくことよりも、一番怖いのは僕自身が「銀シャリ、ちょっとよくないな」と思うことなんで。橋本少年が銀シャリを見て「この漫才師、なんかしょっぱいな」ってなってしまうと危ないから、そこだけは守るためにやってる感じがありますね。

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