「M-1の細かいところ」を話してきた
橋本 直
お久しぶりです。こうしてパブリックな場で漫才についてお話しするのは石田さんのYouTubeチャンネルに呼んでもらって以来ですかね。
石田 明
うん。だいたい話すのはクローズドな場やもんな。そこで世に発信できないようなことをしゃべってる(笑)。
橋本
もう石田さんも「先生」ですから。公の場では言葉遣いに気をつけないと(笑)。M-1も前回までは見る側として一緒にしゃべる場にいたんですけど、今回、石田さんは審査員されたから。こんなにお会いしていないのは初めてかもしれない。
石田
そうやんな。やっぱり、橋本と話すとおもろい。たいてい橋本がM-1の直後とかに、「石田さん、あれ、どう思いましたか」なんて言ってきたんやけど。
橋本
いつもM-1の細かいところを聞いてましたよね。最近、石田さんのSpotifyが始まったじゃないですか。今のところ全5回、ぜんぶ拝聴してます。「うわ、これめっちゃお聞きしたいやつや!」って思いながら。

「意見」を持つと「細かいこと」が気になる
橋本
そしてこの本、『答え合わせ』ですよ。本当に素晴らしい本だと思う。
石田
僕の本と橋本の『細かいところが気になりすぎて』で言うと、僕のはどちらかというと教科書っぽい。橋本のはハウツー本。特にツッコミの人は、橋本が書いてるような「引っ掛かり」をたくさん持てるようになったらいいと思う。
橋本
うわ、うれしいです。僕は石田さんの本に書かれてた「100メートル走のスローモーション」の話が印象に残ってるんです。
石田
「本人はコンマ1秒を縮めるために全速力で走ってるのに、最後のゴールシーンでスローモーションにする意味がわからへん」ってやつな。
橋本
本人は「風」になりたいのに(笑)。これって細かいことじゃないですか。誰も気にしてないし、「別にええやん」って言ったらそれまでの話。そういう漫才のネタになりそうな引っ掛かりを、この本では漫才にせずに書いたっていう感じです。
石田
ほんと、この本にはめっちゃ漫才のヒントがある。自分の本にも書いたけど、やっぱり「意見」を持つことがおもろくなる秘訣やな。

橋本
そうですね、違和感とか。
石田
橋本なんて、まさしく意見まみれやん。正直、「え、そこまで?」ってくらい意見を持ってる。俺はブラマヨ(ブラックマヨネーズ)の吉田(敬)さんに「石田はもっと意見持ったらおもろくなれるから」って言われて意見を持つようにした。
橋本
本の中でも、もともと「究極のイエスマン」だったっておっしゃってましたもんね。
石田
そうそう。だから橋本みたいな“ネイティブな意見持ち”はすごいと思う。
橋本
たぶん石田さんって、「ひな壇でしゃべってください」よりも「1時間、ひとりでしゃべってください」のほうがいいじゃないですか。ひな壇とかだと、「もうちょっとしゃべりたかったな」「今の伝わってないな」みたいになりがちですけど、ひとりだったら自由にぶん回せる。
石田
いや、橋本の本こそ、これだけ言えたらすっきりするやろなって思った。「これだけは言いたい」っていうね。僕は親子丼の上に載ってる黄身がむかつく。
橋本
すでに「親子」はできてるのに(笑)。
石田
それやのに、あいつが主役の顔してる。
橋本
だから、石田さんバージョンの「細かいことが気になりすぎて」もできるんですよ。
石田
でもやっぱり、こんなに書けない。橋本はずっと書けるでしょ。
橋本
そうですね、もう永遠に。本当に楽しいですね。
石田
やっぱり何かを吐き出すこと自体は楽しい。ネタにはなりきれへんけど、言っておきたいことってあるやんか。それがこの本には無限に詰まってる。
橋本
うれしい。同業者というか、一番近い先輩に読んでもらうと照れくさいところもありますけど。
石田
それと、これはほんま「音」で聞きたくなる。文字で読んでてもおもろいけど、橋本の言い回しで聞いたらよりおもろいやろな。
橋本
それもうれしい。僕の声が聞こえるって言ってくれる人は多いです。これを読むだけのラジオやろうかな(笑)。朗読会みたいなイベントとか。

「現時点での答え」を置いていきたかった
橋本
『答え合わせ』は、ほんま「やってくれたな」って感じですよね。やばいですって(笑)。パスポートみたいなのを作っちゃった感じで、一般の人との垣根がなくなりますよ。この本がぜんぶ言語化してるから、お笑いファンにとってはふんわりした感覚だったものが「そうか、だから私はこういう漫才が好きなんだ」ってはっきりすると思いました。めっちゃおいしい本ですよ。石田さんがベロベロに酔っ払って熱く語ってるときの話も入ってるから。
石田
漏れてしまっている(笑)。
橋本
漏れてますね。僕からすると「これ、俺が石田さんと3次会まで行ってやっと聞ける話や」っていう。簡単に言ってしまうと、だいぶお得です。これが1000円で読めるってえげつない。素人のときに読みたかったですね。僕もお笑いマニアで、図書館でいっぱいお笑いの本を借りたりしてたんですよ。『答え合わせ』はぜんぜんぬるい本ではなかったから、素人時代にあったらうれしかったと思う。満足度めちゃめちゃ高いと思うんですよ。
石田
そうね。お笑いの人でなくても何らかの手がかりになるんやないか、そうなったらええな、と。

橋本
でも、考えって常に変わっていくじゃないですか。しばらく経ったら、「あ、違うねん、もうその意見やないねん。今はちょっと変わってんねん」って。
石田
そう、変わっていく(笑)。それもあって、ずっと出版を断ってたんやけども、今回のは「現時点の最終的な意見」っていう感じで出したから。俺の子どもは小学生なんやけど、歴史の教科書とかは僕らのころとぜんぜん違う。
橋本
「いい国(1192)つくろう鎌倉幕府」じゃなくなっていたりね。算数の円周率も3.14が3になったかと思ったら、「また3.14でいきます」とか。
石田
そうそう。特に謝罪もないしな。公教育がこんな堂々と変わってるなら、俺もええやろって(笑)。
橋本
そうですよね。やっぱり『答え合わせ2024』って、でっかく書いてほしいですね。10年後に読んだ人から「これもう全部知ってるわ」って言われたら、「ちゃうちゃう、これは10年前に書いたやつで、今は改訂版があるから」みたいな。
石田
それくらい変化するものだということで、気軽に読んでもらえたらええな。
橋本
思ってることは変わっていくにしても、たしかにどこかで1回まとめる、ビスを打つっていうのは大事ですね。
