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虫の居住空間学。昆虫館館長・中峰空×デザイナー・三澤遥

昆虫界に見る珍奇性は成体にとどまらない。種によって形も材質も異なるトビケラの巣。母体の中で様々な表面構造が形成されて産み落とされるナナフシの卵。トビケラの生態に詳しい昆虫館館長の中峰空と、デザイナー三澤遥による、昆虫たちの摩訶不思議な居住空間の話。

Photo: Hiroshi Nakamine, GlobalIP (iStock) / Text: Chisa Nishinoiri

木の実形や文様を纏ったナナフシの卵。

並外れた擬態能力で有名なナナフシは卵も不思議。卵殻を作る過程で様々な表面構造が生まれる。

中峰空

ナナフシの卵は見た目も面白いですが、海外の種では木に並べるようにくっつけて産んだり、クサビを突き立てるように産んだり、産み方も面白い。取っ手付きのものはアリに掴ませて運ばせたりも。しかも蓋みたいなものは、孵化する時にここがパカッと開いて、そこから幼虫が出てくる。

三澤遥

確かに、蓋のような部分はいかにも開きそうな形。こちらの想像に近いことが自然界で起きてることにびっくりしますね。

中峰

卵の形や模様はおそらく遺伝的にプログラムされていて、遺伝子が発現する順序や形成のされ方によって表面に凸凹が生じる。遺伝的なものと物質の特性的なものが合わさり、体内で自然と形成されるというのが面白いですよね。

トビケラの巣は、昆虫界の名建築⁉

体がぴったり収まる大きさで、前から頭を出して移動したり採餌する姿は、まるで水中のミノムシ。

三澤

それから、トビケラが葉っぱや小石などを使い自分だけのすみかを作るのは知っていましたが、こんなに種類があるんですね。不思議。

中峰

トビケラの幼虫はほぼすべてが水生昆虫。携帯型の巣を作るものもたくさんいます。葉を長方形に切ってつなぐムラサキトビケラや、丸っこく切って布団みたいな形に貼り合わせるコバントビケラ。これらは流れの緩やかな川底にいます。

大きめの石で両側を挟むニンギョウトビケラ、トウヨウグマガトビケラは細かい砂で筒状の巣を作る。キタガミトビケラの巣は入口に柄が付いていて、川底の石に固着させて流れの中に浮き、流れてくる餌を捕食します。

三澤

種ごとにそれぞれやり方やこだわりがあっていいですね。

中峰

中でも一番衝撃的なのは、カタツムリトビケラ。直径は2.5㎜ほど。石英のような砂粒だけを使い、そこから可愛らしい幼虫の顔が覗く。なんやこれは!と思いました。

三澤

まさに石積みの職人技。人間でも、これほど緻密に作り込める人はそういないかも。きめ細かで、すごく滑らかそう。その少し異様にも感じる精緻さが、とても不思議で美しい。そもそもどうやったらこんなに綺麗に作れるの?って。生き物はそれを自然とやっているんですね。

中峰

例えばカタツムリトビケラだと、海外のものではいろんな巻き方がある。日本の種と比べて背が高かったり扁平だったり、大きめの砂粒を使ったり。約230種を含むカタツムリトビケラ属というグループの中では、砂粒を集めて巻いてさえいればどんな形でもいい。

でもそれぞれの種の中では、特定の砂粒しか使わないとかすごく厳密。大枠の中でのいい加減さと種ごとの厳密さ。両方が存在する多様性が面白いですね。

三澤

どんな素材を使うかは環境に起因しているんですよね。水の流れが緩やかだから布団に挟まれて寝ようとか、大きい石で沈んどこう、とか。そう考えるとチャーミングですね。

どういう立地で、どんな素材の家で、自分はどう生きていきたいか。人間の思考回路で勝手に妄想するとすごく楽しいですね。1匹で作っているというけなげな営みも素敵です。